第2話 転生したら聖女の娘でした


 暗い闇の中から目を覚ます。俺は手を動かそうとするが、動かない。


 それは手だけではなかった。足や腕、腰に首など。動かせる部分は全部試したが、動かなかったのだ。


 考えてみれば俺は断頭台で死んだはず。何故生きているのかすらわからなかった。


「もう起きたのですか。今日は早起きなんですね」


 俺の目に映ったのはエレノアという白銀の髪を持つとても美しい少女だった。


 彼女はアマヤ王国では【聖女】と呼ばれていて国民から親しまれていた人物だが、その人気故に国王が殺害の対象にした人物だ。


 もしかしたら彼女が俺のことを助けてくれたのかもしれない。聖女様の力であの状態でも俺を元通りにできたのだろう。


 ――――よし、決めた。俺はもう聖女様についていく。そのためにはまず聖女様を殺そうとしたあの国王を殺さないとな。

 そして聖女様に告白して、幸せな家庭を築くんだ。


「エレノア、どうした?」

「エドワード、ティアが起きましたよ」


 エレノアに話しかけ、俺のことを見つめてくる男はエドワード・ブリュンヒルデ。産まれ持った才能から、数多のドラゴンを幾度と無く、討伐してきたこの国の【英雄】。

 そんな男に聖女様が呼び捨てで呼び、二人の左手にはお揃いの綺麗な指輪があった。


 ファッ!? お前ら結婚してたのかッ!?


、おはよう」


 俺に向かって知らない女性の名を告げて挨拶してくるエドワードだが、俺は先程の聖女様についていきます宣言したことを後悔し、少し恥ずかしくなっていた。

 すると突然、エレノアが俺のことを軽々しく抱き上げたのだ。


「ティア、お父さんに行ってらっしゃいの挨拶ですよ」


 エレノアは俺の右手を掴んで手を振る。そこで俺は気づいてしまったのだ。

 ――――俺の手……



 このことに気がついた俺が、この二人の子どもに転生していたということを理解するまでそこまで時間は掛からなかった。


 転生したということに気づいてから三日後には息子が消えているという残酷な事実を告げられた。

 突然泣き出した俺を見てエレノアは少し混乱していたが、母親らしく俺のことを慰めてくれた。


 それが母性なのか、それとも聖女の力なのかはわからないが、俺は不思議な安心感に包まれた。



 ◇◇◇



 窓辺の椅子に座っていると、外から剣を振る音が聞こえる。気になって覗いてみると無駄に広い庭で剣を振る英雄が一人。


「セイッ! フンッ!」


 今日もエドワードは日課のごとく剣を振っている。英雄だから他とは違うのかもしれないが、俺には不思議に思ったことがあった。




 ――――なんで、いつも1人で素振りしてるんだ?




 いや、1人で練習してるのは別に普通だと思う。けど俺が言いたいのはそこじゃない。そろそろ転生してから1年経つが、俺はエドワードの仲間やパーティーメンバーというのを


 そりゃ英雄にもなれば簡単には家に招くことはできないかもしれないが、エドワードだって人間だ。パーティーメンバーや酒をかわす仲のヤツの話ぐらいはするだろ。

 だが俺の知る限り、エドワードがそんな話をしたことは一切ない。


 ……まさか俺が転生者であると既に気づいていて、俺に情報を渡さないために黙っているのかっ!?

 さすがはこの国の英雄だ。転生した俺が国王を殺すということも既に読んでいるのか。面白い。俺の復讐を止められるものなら止めてみせろよ! この国の英雄ッ!



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