第6話 ひとつ屋根の下

 すみれ寮は、不思議な間取りをしている。


 壁にかける時計に例えると、数字の6辺りが玄関。

 そして長針と短針の重なる要辺りに食堂というか、みんなのくつろぎスペースがある。


 そして数字の2に、通いの万副さんの部屋、数字の3に花ちゃんの部屋、数字の8の所にマシュー、数字の10に私、城咲繭の部屋となっている。


 ついでに、数字の12辺りに大浴場があるけど、今は各部屋にトイレ、バスがあるからよほどの冬場しか使われないらしい。

 に、しても。

 この寮に入れたのはラッキーだった。

 もう、結構二重生活に疲れていたから。




「夕食は五時半。朝食は六時。消灯は、昔は決まってたみたいだけど、今は十一時までには寝るようにって言われてる」

 ダンボールを置きながらマシューが教えてくれた。

「わかった。ありがと」

「あと、二階が全部図書室になってるから。古い型だけどパソコンもコピー機もあるし。結構使えるよ」

「へー。後で行ってみたい」

「うん、行こうよ。チューする?」

「相変わらず脈絡ないね。しないから」


 荷物といってもダンボールが二箱のみ。

 食事付きだし、マシューを見ても基本学校のジャージを着ている。しかも中学の。


「ほらほら。今日は新入りさんの歓迎会だからすき焼きだよ! 奮発ふんぱつして高めの牛肉だからね」

 万副さんが鍋を抱えてやって来た。

「ねえ、万副さんも一緒に食べようよ!」

 私が言うと、

「いいのかい?」

「いいに決まってるじゃん。ちょっと早めに食べてさ、んで、私たち食べる前にパパと子供っちのもタッパーで持って行きなよ」

 マシューも続けた。

「泣けるねえ…。あんたたち」

 腕を目に当て、万副さんが微笑って泣く真似をした時だった。


「こ、こんばんは。いや、ただいま」

 花ちゃんが帰って来た。

「先生、お帰りー」

 私たちは三人で先生を出迎えた。

「あ、たたっ、ただいま」




「超ーおいしー」

 真中さんが美味しそうにお肉を頬張っている。


(繭ちゃん……。ああ、彼女と一緒に鍋をつつく日が来るなんて…)


 感動に浸っていると、

「さあさ、先生」

 ビールを万副さんが傾けてくれた。

「あ、じゃあ」

「でも先生、どうしちゃったの? どう見ても大学生みたいに若返っちゃって」

「ホントー。それに先生美人だったんだね。ボンッキュッボンッじゃん」

 真中さんの言葉に、

「すごい綺麗になったよね。先生、好きな人いるの?」

 何と、繭ちゃんが私に興味を持ってくれたのだ。

「いるけど、片想いなの」

 正直に言ってみた。

(ど、どんな反応してくれるのっ)

 ドキドキしながら私は繭ちゃんを見た。

「好きって言えないの?」

「言いたいけど、今の関係が壊れるのが怖いの」


 私はなるべく、何でもない恋の相談のように続けた。

「そっか。その人幸せだね」

「えっ?」

 私は勇気を出して、じっと繭ちゃんを見つめた。

「私が先生から告白されたらつき合うけどな」


(えっ今…何て?)


「えー、ずるーい。私の告白速攻で断るくせにー」

 真中さんが繭ちゃんの肩にすり寄っていく。

「マシューは、ねねとつき合ってるでしょ」

「あれはあれ、これはこれー」

(…へ⁉︎ ちょっと…先生、ついていけないんだけどー)



 しばらくして。

「あ、先生。ももちゃんにご飯あげといたよ」

 繭ちゃんが卵を割りながら微笑った。

「ホント? ありがとう。全部食べた?」

「うん、全部食べてたよ。で、今、私の部屋で寝てる」

「え? 繭ちゃんの部屋に…いるの?」

「うん。後でこっちに連れて来ておいてあげるね。私たちも万副さんもアレルギーないし、三人とも猫大好きだから自由にさせてあげて大丈夫だからね」

「ありがとう」


 そう、お礼を言ったけど。

 私……。

 ももちゃんに嫉妬してる。


 繭ちゃんに抱っこされたり…。

 繭ちゃんの部屋で寝たり…。

 いいなあ。

 私も…。

 猫になりたい…。


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