繭ともも

a.kinoshita

第一章

第1話 爆乳先生とスチューデント

「はぁ……」

 昨日の夕食の残りの煮物を温めて。

「いただきます」

 手を合わせて、静かな夕食が始まる。

 私の名前は森野花子、57歳。

 両親の介護と高校教師、そしてネコのちゃんのお世話を一生懸命していたら。

 あっという間に、オバさんになっちゃった。


「昔は美人でスタイルもよくて……、美乳だったのに」

 時々そんな事を呟くけれど。

 聞いてくれるのは…。


「ニャー」

「あ、ももちゃん、お腹いっぱいになった?」

「ニャー」

「私の人生、これはこれで平凡でいいのかしら」

 寂しくない、と言えばウソになる。

 でも。いいの。

 毎日、あの子の姿を見れるだけで。

 それだけで幸せなの。

 そんな事を思って。

 いつものように朝を迎えた。




 -キャアアァァ!-


 鏡に映った自分に、自分で悲鳴をあげた。

「ど、どど、どうして!」


 そこに映っていた私は、私が一番大好きだった、二十歳のころの自分だった。




 -私立D学院-


「お、お早うございます。皆、席について」

 教材で顔を隠すようにして教室に入ったけれど。

「あれっ、オバチャン先生休み?」

 クラスで一番元気な比嘉ひがねねが、私に大声で尋ねてきた。

「いえ、あの、私が森野です」

「またまたーあ。何? オバチャン、風邪?」

 そう言ったのは、運動神経バツグンでこの学院一のモテ女、桜井星香せいかだった。

「いや、だから…」

 その時だった。


「綺麗になったね、先生」


 窓際の席で、静かに本を読んでいた城咲しろさきまゆがそう言って、にっこり微笑ってくれたのだ。

「えっ、繭、あんた信じるの⁉︎」

 星香が自分の席に戻りがてら繭に言った。

「だってよく見てみなよ。面影あるし、胸だって大きいままだよ」

 この一言で、クラス中の女子の視線が私の胸に注がれる。

「ホントだ。乳は爆乳だ。ってゆーか、前よりデカくね?」


「あ、あのー」

 私がまごついていると、

「みんな認証してくれたみたいだよ。良かったね、先生」

 そう言って天使のように微笑ってくれた、クラス委員兼、生徒会長でもあるこの城咲繭が。

 そう、私のハートを鷲掴みして離さない、私のいとしい愛しいお方なのである。






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