抵抗
数時間後に地球統合軍が派遣された。復興の為と思ったがそうでは無かった。
自警団が軍所属のAPを攻撃した反逆罪を問うて来た。
しかも、軍の許可もないAPを使って反撃したと言う罪まで着せて来た。
当然、身に覚えのない事に自警団は潔白を主張した。「攻撃したのは軍の方だ」と。
しかし、軍は攻撃と言う事実に心当たりがない、レコーダーにも記録されていないのその一点張りだ。
自警団にはそれを立証する証拠がないと言う言い分を突き通し、軍の正当性と正義を主張した。
最早、言いたい放題だ。
そのまま武装した者達はテロリストとして処断すると脅迫してきたが、それを免除する代わりにこの集落の15歳以上20歳前半の人間の徴兵を要求した。
つまり、リテラ、フィオナ、アリシアがこれに該当する。最初はそんな要求は飲めないと彼らの両親は反対した。
だが、出なければ集落の全員をテロリストとしてこの場で銃殺するとそう脅迫してきた。
アリシア達はそれを聴きながら不安だった。
「わたし達、このまま戦場に送られるの……」
「あんな事をする奴らの片棒担がされるんだろう。いやだよ」
「……」
その場でアリシアは黙っていた。
さっきの戦いで思った事が想起される。
何かを守る事には犠牲が付き物。
その言葉が頭に木魂する。正直、怖かった。
その一歩を踏み出せば自分が死ぬかも知れない。
でも、それ以外はないと思った。
アリシアの手は次第に両手をクロスする様に重ねて祈った。
(お願い、私に一歩を踏み出させて)
震えは止まらなかった。
止まらなかったが……何かがそっと彼女の心を押してくれた気がした。
アリシアは立ち上がりその場に赴いた。
「私は……それでも構いません」
両親の前でアリシアは一切動じない強い意志を感じさせる瞳で答えた。
無論、その場にいた父であるハイマンはそれに反対した。
「待て!そんなの事をする必要はない!全てはこいつらのペテンだ!」
「でも、行かないと皆殺されるよ。それでも良いの?」
「そうだが、それとこれとは話が違う」
いや、違わない。違わないと分かっているが理性よりも感情が奔る。
父親としてそれは拒否したかった。
アリシアは一言一言を怖くて震えそうな言葉を押し殺しながら、気丈に話を続ける。
「軍人さん。私が兵役に付くのでそれで何とか、なりませんか?」
「嬉しい話だが、我々の要求は対象者全員だ。君の友達にも来てもらう」
「それは本人の意志なので私が関与はしません。それと何ですけど……」
アリシアは交渉をする為にカードを切った。
自分に出来る、自分だから出来た、自分に与えられた最大のチャンスをここぞとばかりに活かす。
「私が徴兵される対価としてそちらは集落の対象者を減らし、集落の修繕を手伝うなら私はそちらに従います」
軍人は首を傾げた。
(この子供は何を言っている?)
まるでこちらと対等とでも言いたげな態度に軍人は不快感を抱く。
ただの子供に偉そうに言われるのが癪だからだ。
「何故、我々がそのような事をする必要がある?」
「あなた達は自衛の為に殲滅したと言いました。でも、アレは”カイロ条約”で言う所の過剰防衛罪ではないんですか?」
その言葉に軍人に軍人は首を傾げた。
どうやら、その罪状を理解していないらしく、慌てて副官らしき男が補足をすると彼の顔が凍り付いた。
武力を傘に無法を振り撒く事に慣れ、法と言う秩序を軽んじ、その穴を突かれ彼の肝が一瞬にして冷える。
ただの難民と思っていたが、目の前の少女の思わぬ博識ぷりに不意を突かれた。
過剰防衛罪とは
自己防衛の為だとしても必要以上の破壊をした場合に罰せられる罪状だ。
APと人が対峙して人がAPに殴り掛かったからAPのライフルで殺害した、光学兵器で人を殺す等がこれに当たる。
そんな建前だけのルールを守っているやつなどいない。
だが、今回は話が別だった。
「仮に我々がテロリストだとしても先の戦闘で銃を持たない子供にあなた達は攻撃した。テロリストと断罪するならそれでも構いませんが……」
アリシアは手に持ったタブレットを振りかざしながら吉火のT4が撮影した戦闘記録を見せた。
アリシアは自分は放火の被害に会うと予想して、予め吉火に頼み証拠を押さえたのだ。
吉火と共にいた。と言う立場を最大限に使いアリシアは交渉を優位に運ぶ事を考えたのだ。
軍人は更に凍り付いた。
「何故、戦闘記録ある!」とでも言いたげだが、その反論に余地をアリシアは与えない。
なんにせよ、軍人にとって難民が証拠を持参する事など予想外だった。
圧倒的な武力と権力を前に強引に屈服させるだろうと言うのは検討がついていた。
「もし、このテロ殲滅と言う名の子供の虐殺映像をリークスと言うサイトに投稿したらどうなるか楽しみですね」
アリシアはニヤリと微笑む。幾ら建前だとしても世論を動かされたら「ルールを守らないのが当たり前」では済まされない。
確実に袋叩きにされる。
この情報に喰いつく人間は確実に多い。
アリシアは顔にニヤリとさせながら送信ボタンを押そうとした。
「ま!待て!」
「待ちませんよ」
「待て!分かった!条件を飲む」
軍人は慌ててアリシアは制しする。
アリシアはつぶらな瞳で軍人に目を向け「本当ですか?」と聞き返した。
「あぁ、約束する」
と言ってはいるが、約束は口約束でそんなモノはなかった事にすればいいと軍人は考えた。
少し焦ったが、所詮は子供の浅知恵でありこの場さえ凌ぎきれば何とでもなる。
だが、アリシアはまるで何も聴かなかったように送信を押した。軍人は呆気に取られた。
「や、約束が違うぞ!」
「何を言っているんですか?そんな約束しましたか?録音があるんですか?主導権を握っていたのはどっちかお忘れですか?縄で縛られた敵の要求に従う馬鹿がどこにいるんですか?ちなみに今の約束も動画で送信しました」
アリシアは馬鹿ではない。
人の考えそうな事をだいたい予測をつけられる。
目の前の軍人が、その場凌ぎの策で口約束をする事など初めから織り込み済みだ。
伊達にこんな時代に介護士などしていない。
口約束だと契約を踏み倒す輩が現われるのもしばしば、その時の反省はちゃんと仕事に活かされている。
それがこの交渉で活きている。
送信により放火の事実に喰いつく者が現れる。
しかも、約束をした証拠がある上で破られたら政府の信用問題にもなる。
そもそも、非人道的な事が平然と行われている証拠を開示したのだ。普通に考えれば今回の徴兵がうやむやになる可能性も高い。
少なくとも、相手にとってはダメージはゼロではない。
まるで小娘に嘲笑われたと思い、激情した軍人は拳銃を引き抜きアリシアに突きつけた。拳銃は迸る怒りで筋肉が硬直し、腕がガタガタと震えながら「貴様!貴様!貴様!」と顔を真っ赤にして悔しそうに歯をギシギシと鳴らしている。まさに一触即発だ。
「撃ちたければどうぞ。尤も、あなたには極刑が待っていると思いますけど」
アリシアは怯えるでもなく、ただその蒼い真っすぐな瞳で見つめる。
本当は怖くて堪らないがそれを態度に出す事無く、ただ淡々と気丈に平然と振る舞う。
軍人にとって、その態度は生意気にも自分を嘲笑っているかのようで腸が煮えくり返りそうで怒りを逆なでされるような想いだった。
「こ、小娘ぇぇぇぇぇぇ!!」
軍人が引き金を引こうとした。
その時、アリシアは「あぁ、ダメだ」と流石に死を覚悟した「少しやり過ぎたかな……」と走馬灯が奔りかけた。
今のアリシアにこの距離で弾丸を避ける術などあるはずがない。
父親であるハイマンは慌ててその間に割って入ろうとするが明らかに遅い。
咄嗟の緊張で思考をフリーズし身動きが取れないアリシアの脳裏には不意にある言葉が浮かぶ。
(助けて、神様!)
この神が腐敗した世にそんなものがいるのか懐疑的だが、思わずその様にすがってしまうほど今の彼女の状況は絶望的だった。
あと、1秒もしない内に引き金が完全に引かれ、弾が自分を貫くだろうとアリシアは思わず目を瞑る。
だが、その瞬間、駆け抜ける一閃があった。
軍人の拳銃が1発目で弾かれ2発目は弾丸が腕に食い込んだ。
すると、その場に今度は別の勢力が入ってきた。
「動かないで貰いたい」
複数の兵士が入り、その代表者と思わしき男が入ってきた。
「誰だ?」
全体の空気がピリピリしているのもあり、ハイマンは威嚇気味な口調で尋ねた。
「我々は軍の人間だ。その男を逮捕しに来た」
「ほう。仕事が速いな。なら、その虐殺犯さっさと連行しろ!」
「いや、この男の容疑は武器の横流しと麻薬の横流しだ。君達の流した情報は我々が抑えた。これで世に出回る事は無い」
その真実を聴いた時、アリシアの頭の中は真っ白になり、顔から絶望が浮かんだ。
自分が決死の覚悟で行った努力が無慈悲にもガラガラと崩れた。
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