13

▼ 姦 ▲


翌朝。


ご飯の後、僕はパジャマ姿のままリビングのソファーに寝転がって、

「あー休みてぇー、学校行きたくねぇよぉー」

「引きこもりみたいな事言わないの。私先に行ってるからね」

既に制服を着てピシッと決まっている生徒会長様は、無慈悲にお兄ちゃんを置いて家を出て行く。何て妹。このままサボって身内の恥となって評価下げてやろうかしらん。あ、この作戦は使い過ぎてもう効果ないんだった。

と。

「ふわぁ……んー? おやぁ? ツル君今日学校サボるのぉ? なら今日はお姉ちゃんとラボで過ごすー?」


朝シャン後の——パンツ一丁と肩にタオルのみ——濡れ髪半裸姉が、徹夜明けの眠そうな顔でやって来た。


「さて、着替えて真面目に学校行くか」

「冷たいよツルくーん。てか、どうせツル君はこの先もこの家から離れないんだから、学業とか就職とかどうでもいいじゃなーい」

「へんっ僕は神様だから気分屋なんだ。この家捨てて自由に生きる未来もあるんだぜっ」

「ママとパパ相手に逃げきれるのー?」

「……、パパンなら話せば解ってくれるから……」

「今のツル君でもあの二人は脅威なんだねぇ」

あの二人を相手に姿を眩ますには、この地球(ほし)は狭すぎる。


『ピンポーン』


と。こんな朝っぱらから来客の気配。神社だから珍しくもないけど。

インターホンを押した主を壁のドアホンで確認すると……何だ、カサネか。いつものように僕を迎えに来てくれたのだろう。

マドンナ幼馴染のお迎えイベント。悪くないテンプレだが……悲しいかな、僕と彼女の間にそんな甘酸っぱい何かは無い。


——ん? 見れば、何故だか彼女、しきりに髪を弄ってモジモジしたりして……おしっこ我慢してるのかな?


そのまま放置プレイでも良かったが、おもらしさせた上に遅刻に巻き込んだら後でネチネチうるさそうだったので、僕の方から玄関へ出迎えに。

「おはよーカサネー! おりゃあ!」

「おはよ——ってひゃあ!? ちょ、そんなっ、いきなり抱きついて来るだなんて……!」

ん? 反応が初々しいぞ? 長年求めていた反応だぞ? 顔も紅潮させちゃって……僕の為に演技してくれてる?

「よ、よく見たらまだパジャマ姿だし……」

「こんな朝早くから、遊びに来たのー?」

「制服姿のカサネ見れば学校有るって分かるっしょ!? 早く着替えてっ! あと脇腹モミモミしない!」

玄関でワチャワチャしていると、「どうしたのー?」とツムグもやって来た。

「ちょ、ツムグさん何て格好してはるんですか!?」

「あっ! この泥棒猫ったら何ウチの弟君に抱きついてるのぉ? しっしっ、水入りペットボトル置くよぉ」

「どう見ても抱きついて来たのはツルちゃんですっ、色々見えてるから服着て下さい!」

んー? 何だろう、いつもはこんな光景適当に流す子なのに。……まてよ?

いや。まさか、これは——『成功』、したのか?

ツムグを見る。彼女もピンッと来たのか、頷き返し、

「ツル君、もし同じ様な『症状』の子を見つけたらさー」

「分かってるよ。カサネ。学校が終わったらまた僕んちに来てよ。大事な話があるから」

「え? な、なに? 大事な話って? 症状って?」

「僕らの気のせい……という可能性もあるかもだが……さて(ボソッ)」

「意味深な独り言呟かないでよっ」


それから僕は制服に着替え、カサネと共に学園までの道を歩く。周囲に人影は少ない。


「ねぇツルちゃーん、さっきの話ぃー」

「まぁまぁ、そこは帰ってからのお楽しみに」

「……(クンクン)この匂い……昨夜姉妹と三人で何かしたね? それが関係してる?」

「何て鋭い女だ。え、ええいしつこいっ。唇を塞いでペロペロしてやろうかっ?」

「く、唇を!? ぅぅー……」

「……、ねぇカサネ、僕達付き合う?」

「つ、付き合っ……!? ほ、ホントに!?」

「あれぇ? でも数日前、『ラブはラブでもファミリー的な方だからぁ』って断られたんだったねー」

「あ、あれは……! なんてゆーか……! ぁぅぁぅー……」

こ、これは、なんて楽しいんだ! 弄りがいのある幼馴染! これこそ僕が求めていた女の子! 僕がハァハァ興奮していると、「あ、あれってイナリちゃんじゃない?」と話題を変えるように視線を移すカサネ。仕方なく視線を追うと、


「おいメスガキィ! テメェぶつかっといて詫びも無しかァ!?」


なんか三人組の他校のあんちゃんらに絡まれていた。色々罵声を浴びせかけられているけど本人はまるで相手をする様子も無くスタスタ歩いている。「大丈夫かなぁ?」とカサネは心配そうだが、大丈夫だろう。

「あっ、こいつあの有名な学園の生徒じゃん? リボンから見て確か一年か? 年下じゃねぇか!」

「可愛いからって調子乗んな! 先輩に対する態度ってもんがあるだるぉ?!」

「へへ、見ればいい身体してやがる……愉しませて貰おうかな」

「——ああ? てめぇら、あたしに指一本でも触れたら……って最後の鋏かよ!?」

何故ばれた。「なんだこのガキいつの間に!?」とあんちゃんらも同じ様に驚いている。

「おはようイナリ、一緒に学校行こうぜっ、カサネもあるよ」

「ポロリもあるよ! みたいに言わないでっ」

「お前ら、この状況が……、いや、言うだけ無駄、か」


と、言うわけで三人になった僕達は

「お、おいテメぇら勝手に話終わらせ——」【ついてくんな】

「っ!? か、体が動かせない!?」

引き続き、目的地を目指す。


「ねぇ、このまま三人で今から箱根の温泉行かない?」

「唐突過ぎるよツルちゃん!? まだ月曜日だよっ、学校学校!」

「いいよ最終学歴中卒でも……イナリもそう思うでしょ? イナリ見た目中卒っぽいし」

「わけわからんっ、あたしを巻き込むなよ。てか何で温泉なんだよ」

「カサネがポロリしたいって言うから」

「言ってないよ!?」

「まぁ本音は、外寒いしなんか急に二人の裸が見たくなって」

「混浴前提かよ!」「スケべ!」

「混浴? 今の混浴って水着着用前提らしいじゃん? 普通に女湯入るが?」

「迷いが無い! まぁ、確かにツルちゃんの見た目だと男湯はおかしいけど……いやおかしいか?」

「ったく、調子乗んなよ鋏。家じゃデカイ顔出来るからって外でも思い通りになると思うな」

「んだと? 可愛いからってお前も調子乗んな! 先輩に対する態度ってもんがあるだぉ?」

「さっきの奴らと同じような事言うなよっ、誕生日数ヶ月違うだけだろっ。そ、それに……可愛いって……」

おやぁ? イナリのこんな、弾ける果実のような乙女顔は見た事が無いぞ? ふむ……ここは、

「イーナリ? 寒いから昨日みたいにマフラー巻こっ?」 有無を言わせず巻きつけた後ダメ押しで腕に抱きつくと、

「お、おまっ……! そんなくっつくなよ! カサネが睨んでるから!」

「んー? 昨日もこうやってカサネんち行ったでしょー?」

「む、むきーっ! 二人してくっつかないの! な、ならカサネもくっついちゃう!」

うひょー、何かもう、横に電車ごっこしてるみたいになったぞ。道を塞いじゃって後ろの人にはいい迷惑だ。


そして……確信。やはりカサネも含めて今日は『世界が』どこかおかしい。

いや——逆か? 『今までの世界が』おかしかったのか?


「うー……なんかツルちゃん、鼻の下が伸びててだらしない顔だよぉ」

「腹の下も伸びてるぜ?」

「その報告はいらないよ! ……ねぇイナリちゃん。この感じって……昨日『あんな話』したばっかだってのに」

「……わかってる。何かおかしいのはあたしも『昨夜から』感じてた」

むっ、ヒソヒソとこいつら、僕に聞こえないように……神を蔑ろとか生意気!

「おいおいなんだよ二人共? 僕をハブっての女子トークとは感心しないなぁ?」

「そ、そうゆうツルちゃんも秘密にしてる事あるぢゃん! 朝のツムグさんとの件とか! 先にそっち教えなさいよ!」

「ん? 朝の件って何だ? また何かやらかしたのかこいつ?」


その後も皆でポーカーのように腹の探り合いをしつつ歩いていると、気付けば学園前。


一年であるイナリとは下駄箱で別れ、同じくカサネとも——同じクラスではあるが——何となくその場で別れた。(別に学園でも普段通りイチャついてもいいのだが、何となく距離を取っている。その方が学園のマドンナたる彼女との関係性がプライベートとのギャップにより…………話すと長くなるので割愛)


教室に着き、クラスメイトに挨拶(女の子だけ)した後自分の席に。

太郎? 次郎? のウザッタイ絡みを窓の外を眺めながらスルーしたりして……

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