――そんなこんなで僕らは話しつつ、行き先を近くのファッションビル内にあるケーキ&パスタ食べ放題なお店に変更。


土日なのでそれなりに混んでは居たが、何とか三人分の席は確保出来た。

「よっしゃっ、二人共早く食いもん取りに行った行ったっ、ここは戦場だぜッ」

「お、おい鋏、恥ずいって……周りは女ばっかなんだからそんな早く無くならねぇよ」

「その男は周りなんて気にしない奴よ、慣れときなさいイナリ」

「むっ、おいおい生徒会長様、随分と僕の事詳しいじゃないか。幼馴染かよ」

「似たようなもんでしょ、てかいい加減学園じゃないんだから名前で呼びなさい」

「さ、行こ行こ」

それから適当に選んだケーキやらパスタをテーブルまで運んで――途中「あ、かみさまー」と先程の幼女や母親と再会しつつ――椅子に座るなり、僕はフォークでズルズルバクバクとそれらを口に運ぶ。

「モッ。モモッモモモモモモ?」

「飲み込んでから話しなさい」

「ゴクッ。そういやこの先はどうする予定?」

「この先もついて来るつもり? 別にいいけど……元々、お昼食べたらこのビルで服でも見る予定だったわ。イナリが見たいって言うから」

アイスティーをストローで啜る生徒会長に、僕は首を傾げ、

「服ぅー? イナリちゃん、そんなの興味あるのぉー?」

「ちゃ、ちゃん付けすんなよ。別に、良いだろ、そういうのに興味持っても」

ムッとしたのか、イナリは皿の上にあるアップルパイを八つ当たり気味にグチャグチャに。(というか今更だけど、コイツら死体見た直後なのによくスイーツ食えるな)

「ふぅん……ま、確かにイナリは素材良いから可愛い服とか似合うかもねー」

途端、ブワッと熱を持ったみたいに顔を赤くするイナリ。狐耳がピコピコと荒ぶっている。

「あんたワザと言ってるでしょ」と、横でよく分からない事を呟く生徒会長。まぁワザとだけど。

「よっしゃ、僕がダサいワンピースでも選んだげるよっ」

「そんなん着ねぇぞ!」


……ん? 不意に、僕は気付く。


周囲からチラチラと寄越される不鮮明な視線に。『騒いでて五月蝿いから』、では無いだろう。

「おいおい、お前らかわいこちゃん二人のせいで注目浴びてるよ。僕はその横に引っ付くお邪魔虫と思われて不快なんだが?」

「勝手について来といて酷い言い草だな……」

「それこそ貴方のお得意な被害妄想よ。注目されてるのは――三人だから」

なんだなんだ? それは僕もイケメンだって言いたいのか? このまま三人で芸能事務所にでもスカウトとかされちゃう? ……なんてね。『そういう縁』は面倒くさそうなんで既に『切って』おいてるんですけど。


「ったく。おいテメェら、『ジロジロ見てんじゃねぇ』」


ドスのきいたイナリの声に、バッと、皆の視線がそれた。ビビったから、というのは少し違う。

彼女には『他人に命令出来る』特技? 超能力? 異能? がある。

これのお陰で探偵業が捗る捗る。他にも『カサネには劣るが』鼻も良いし、『モガミには劣るが』読心術も探偵らしくずば抜けている。まぁ全部引っくるめてそこまで『大した力』だとは思わないけど。

さ、お代わりでも持って来ようかと立ち上がった僕は、


「オラァ!! お前らその場から動くんじゃねぇ!!」


唐突に始まった――拳銃とアーミーナイフ持った男の登場という――楽し気なイベントに、すかさず生徒会長と一緒に、トラブルほいほいイナリを見るのであった。

「……なんだよ、あたしは簡潔ねぇぞ」

「「ふぅーん」」

「んだよ揃いも揃って!」

「おいそこのガキ共うるせぇぞ! この手にあるもんがわかんねぇのか!?」

「やかましい! テメェのせいでこっちは迷惑してんだ! ぶっ飛ばす!!」

イナリはテーブル上のケーキナイフを握り締め、強盗男に八つ当たり気味に突撃。獣のような俊敏さで近づいて来るイナリに、強盗男は当然戸惑い――一瞬でゴツいアーミーナイフと拳銃を弾かれ「ゴフッ!?」 イナリの蹴りで、問答無用に豪快に吹っ飛ばされた。

『ドンガラガッシャン』と派手に崩れるテーブルや椅子に客も小さく悲鳴を漏らす。うーむ、流石修羅場慣れと褒めたいところだが、いい加減加減というものを知って欲しい。

「ったく、雑魚が粋がりやがって……やっぱり、拳銃は偽物か。ん、直前まで何処かに電話掛けてたようだな。仲間か? まだ近くに居るならついでにこいつも……」

イナリの手にあるのは、一つの携帯電話。男に近付くと同時に、ちゃっかりくすねていたらしい。手癖の悪い探偵だ。

『ピリリリリ……』

店内に響く着信音。音源は、僕のすぐ近く。その音源を中心に、ザッと、人が離れて行く。中心に居たのは……一人の『店の制服を着た』男。

誰かがポツリ、呟いた。「て、店長?」と。

「い、いや、俺は違っ……!」

「間抜けは見つかったようだな。まさか店の責任者と強盗がグルだったとは。その側の鞄に入ってるのは店の金か何かか? 随分と用意が良いじゃねぇか」

「き、決め付けないで下さいお客様。たまたま、同じタイミングで電話が鳴っただけで」

「じゃあ出てみろよ。てか、仕事中ならマナーモードにしてろよ間抜け」

「くっ……! くそ!」 焦った店長は、あろう事か近くに居た客を引き寄せ、丁度手に持っていた【牛刀】を客の顔面近くに置き、

「人が念密に練った計画をぶち壊しやがって! テメェみたいなガキが来なけりゃ! このまま捕まるくらいなら客を道連れにしてやる! テメェのせいでこいつは死ぬ!」

「……もうお前、終わりだよ。二重の意味で」

「ああ!?」

「……なんで、よりにもよって、そいつを人質にしたんだ。『刻まれるぞ』」

店長が人質に選んだのは――僕でした。

「キャー、タスケテイナリー」

「棒読みやめろ、少しは緊張感持て」

「えーだってさぁ、僕相手に【こんな鉄の板】だよ? 舐められすぎてやる気でないわ」

僕は指を一本立て「お、おい何をして」スッと、牛刀の刃を撫でた。――カラン。「は?」と、地面に落ちた【包丁の刃の半分】を見つめる店長。

『ガンッ!!』 同時に、鈍い音が背後に響いてて……ドザリ、店長が地面に倒れた。

「あまり無茶しないでよ、鋏」

「いや、今の君には言われたくないけど、助けてくれてありがとう」

手に持った店の椅子で、店長をぶん殴ってくれたようだ。躊躇がなくて怖いなぁ。


「オラァ! ガキ共が舐め腐りやがって!」


と。終わったと思っていたゴタゴタはまだ続くらしい。イナリに飛ばされていた強盗男がいつの間にか復活していて……

「ま、ママぁー!!」

 僕が先程、駅で助けた幼女を人質に、アーミーナイフを突き付けていた。

瞬間、僕の中に『既視感』が過る。

『助けたいのであれば、容赦はするな』と僕の中に居る【神様】が唆す。

そうだ。僕が幼女に余計な事をしていなければ……助けていなければ、こんな運命に巻き込まれる事は無かったかもしれない。僕の責任。

だから、責任をとる。


僕は目を凝らして――強盗男の【縁糸】を瞳に映し、掴み、『思いっきり引っ張る』。


「おあっ!?」 僕目掛けて無抵抗に飛び込んで来る男。

腰を低くし、捻る。

その構えは、最速の剣術、居合い。


神様は教えてくれた。技名は―― 『ドグシッ』 ……ん?


一閃が決まる、その刹那。

僕の目の前にイナリが現れ、飛び込んで来た強盗男の顔面に、足の裏をぶち込み、蹴り飛ばした。

再び派手な音を響かせながらテーブルや椅子を撒き散らす強盗男。どうやら、ある意味イナリに『助けられた』ようだ。

「ふぅ……間一髪。おい鋏、場所考えろよ、血の雨でも降らすつもりか」

「何をおっしゃる、僕の一級の切れ味は血の一滴も散らせないって有名でしょ」

「ものの喩えだよバカ、ショッキングなシーンになるのは間違いねぇだろバカ」

「お二人さん、イチャイチャしてるとこ悪いけど、そろそろ立ち去った方がいいんじゃない。じきに警察も来るでしょうし」

生徒会長の言う通り、ざわざわと人が集まり出したようなので、面倒くさくなる前に消える事に。

「かみさまー、またありがとー」


ううむ。あそこで大きく手を振る幼女には、また今度、会う事になる縁を感じる。


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