第33話 変態後輩とアプローチ

 俺と奏多の同棲生活も2ヶ月目に入り、最初は戸惑いつつあった環境に今は完全に慣れてしまった。

 ……のだが、ここ数日でまた新たに俺を戸惑わせてやまない状況になってしまっていた。

 その原因は――言わずもがな、変態の後輩こと奏多司だ。

 ここ数日、昼休憩になると、奏多は毎回俺のいる教室まで来る。ここまではいつも通りなんだが……。


「あっ、大地。奏多さんが来たよ」

「……さて、今日はどんな感じでくるのかね」


 翔也の言葉に思考をやめ、頬杖をつきながら教室に入ってきた奏多に目をやると、俺と目が合った奏多は眩いばかりの笑顔を張り付けて……。


! ご、ご飯一緒に食べない? べ、別にわたしが一緒に食べたいわけじゃなくて……そう! あんたがぼっちでご飯を食べてるのがあまりにも可哀想だから……それだけだから!」


 いつも通りのあざとい声で、いつも通りじゃない呼び方で俺を呼んだ。

 そう。ここ数日、俺を悩ませている奏多の言動というのが、急に俺の呼び方を先輩から色々なものに変え始めたのだ。


 ちなみに昨日は大地と呼び捨てだったし、一昨日は大地くんだった。

 ……こいつは一体何がしたいんだ? わざわざ口調まで変えて……。

 当然、俺は何をやってるのか聞いたが、一向に理由を話さず、質問を無視してそのままの口調で接してくる。

 その癖、家ではいつも通り先輩と呼んでくるんだから余計に意味が分からない。


「じゃ、僕は真帆ちゃんの所に行くから」

「おう。さて……俺も移動するか」


 翔也を見送って、俺は教室から出る。

 教室でこいつと話してると視線を集めて仕方がないからな。

 当然のように隣を歩き出した奏多に視線を移す。


「やんっ♪ せんぱいがけだもののような目でわたしを見て……はっ! こほん! どうかしたの? 雨宮」

「いや無理があるだろ。最後までキャラを一貫しろよ」


 どうやら幾らキャラを作ろうとも溢れ出る変態性は抑えきれないらしい。作ったキャラに変態という中身が押しつぶされて浄化されてしまえばいいのに。


「……で、お前は一体何がしたいわけ?」

「なにって……バ、バッカじゃないの!? 女の子にそんなこと聞くなんて何考えてんのよ! 嬉しいですけどそういうのは2人きりの時よ! この変態!」

「だからキャラがブレてよく分からないメッキが剥がれて中から抑え込まれてた変態が滲み出ようとしてんだよ! というかお前が何考えてんだこのド変態が!」


 一体今の俺の質問からどんな解釈したのかは分からないが、奏多は顔をにやけさせたまま顔を赤らめさせて身体を抱くようにして、俺から2,3歩ほど距離を取った。

 というかなんでこいつ嬉しそうなん?


 ……はあ、ツッコミ入れたら余計に腹減ってきた。

 奏多を適当にいなすことを決め、俺は購買へと歩き始めた。


◇◇◇


「はぁ? アプローチ方法を変えて試してたぁ?」

「はい! せんぱいは一体どんなタイプが好みなのか調査をしてました!」


 帰宅後、リビングでここ最近の妙な行動の理由を聞かされた。 

 なるほど……それで呼び方を変えていた、と。


「一昨日は幼馴染系後輩のわたし! 昨日は気弱系後輩のわたし! そして今日はツンデレ系後輩のわたし! さあ! せんぱいが1番グッときたのはどの後輩のわたしですか!?」

「……悪い、俺は実は年上好きなんだ」

「先輩系後輩、もしくは年上系後輩ですね! 分かりました!」

「先輩系後輩!? 年上って言ってる時点で後輩って属性をねじ込む隙はねえよ!」


 ぶっちゃけ歳がどうこうじゃなくて俺が相手を好きかどうかだから年齢とかは考えないような気がする。

 今は歳の差婚なんて当たり前だしな……真面目に答えるのもバカらしくて適当に言ったのにまさか年上に後輩をねじ込んだNEWスタイルを作り出して来るとは思ってもみなかった。


「むーっ! 後輩の何がダメなんですかぁ!」

「後輩がダメなんじゃなくてお前が変態であることがノーセンキューだって言ってんだよ!」

「その内変態抜きじゃ満足出来ない体になるからだいじょぶですよぉ!」

「怖えよ! お前俺に人体改造でも施すつもりか!? 常識的な判断が出来る内に是非距離を置いていただきたいね!」


 今の会話の一体どこに俺が大丈夫で安心出来る要素があるっていうんだ! 

 

「ねぇ、せんぱい……わたしのこと……嫌い……ですかぁ?」


 ソファに座り込んでる俺の正面に立ち、腰の後ろで手を組むようにして前屈みになった奏多が顔を覗き込むようにして目を潤ませていた。

 ったく、なんて顔してんだこいつは……まぁ、それはそれとして。

 

「とりあえず腰の後ろで組んだ手の中にあるスマホの電源を切れやおら」

「ちっ……さすがせんぱい、わたしのことをよく理解してよく見てくれてますね! これはもう相思相愛の運命ってやつですね!」

「平然と会話を録音しようとしてた奴と運命なんて感じたくないわ! あと舌打ちしたの聞こえてるからな」


 というかいつスマホの録音アプリを起動しやがったこいつ。

 本当気を抜くことを許しちゃくれない。


「はぁ……とりあえず腹減ったな」

「そうですねー。とりあえずご飯にしましょうか! せんぱい今日は何が食べたいですか?」

「なんかあっさりしたものとか」

「主食はあっさりしたもので……おかずがわたしですか!? もうっせんぱいのえっち♪」

「おかずのことなんて欠片も触れてないんだよなぁ……」


 アプローチを変えるとか言っても、結局変態は変態だったし、元に戻ってもただの変態だったな。

 まあさっきの奏多の質問に敢えて答えるなら……別に嫌いとまでは言ってない、だ。

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