第23話 変態後輩と天使の姉と

「ふわぁ……よく寝た」


 ベッドから緩慢な動作で上体を起こした俺は、隣を見る。

 ……ん? あいつ、今日は未来さんと一緒に寝るって言ってなかったか? なのに何で俺のベッドに? ……ったく、こいつは……!


 未来さんは昨日からこの家に泊まっている。

 どうにも、ようやくまとまった休日が取れたらしく、しばらくこっちにいるらしい。


「おい、起きろって。ベッドに潜り込むなって何度も言ってんだろ……」

「んぅ……うるさぁい……」

「んぐっ!? ちょ、おいっ!?」


 掛け布団の中から伸びてきた両腕に引きずり込まれ、奏多の胸に抱かれる形になってしまった。

 急いで抱擁から逃れようと、体を動かすと布団がずり落ちて、カーテンから差し込む朝日が俺たちを照らす。


「……はぇ?」

「まぶしいよぉ……つかさちゃぁん……」

「う……うおあぁぁぁあっ!?」


 みみ、未来さん!? え!? 奏多じゃなくてなんで未来さんが俺のベッドに!? いや奏多がいつもいるのもおかしいんだけど!


「……んー? ……あ、だいち……くん? ふぇっ!? ど、どうして!?」

「それは俺のセリフですよ!? というか離してもらっていいですか! このままだと俺のアレがあれして大変なことになりそうなんで!」


 忘れちゃいけないが、俺は今、胸に抱かれている……! つまり、俺の顔の前には未来さんの豊満なおっぱいが……!

 いかん! 想像したら息子がイキり始めた! 静まれ! じゃないと俺が社会的に死ぬ!


「えっとぉ……あ、そっか。ここが元々私の部屋だったから……夜中にトイレ行った時に寝ぼけて部屋間違えちゃったみたい!」

「わ、分かったのでとりあえず早く離れてもらっていいでしょうか!?」


 拘束が緩んだ瞬間に、俺は理性を総動員してベッドから抜け出した。

 この人天然か……でも、エロい! 可愛い!


「うわわっ! 本当にごめんね!? ……ふわぁ」


 両手を合わせて謝ってきたと思ったら、すぐに大きなあくびをして、慌てて口を隠して赤面して微笑む姿はまさに天使と言っても過言じゃなかった。

 

「んー……遅くなったけど、おはよぉ。大地君」

「お、おはようございます……未来さん」


 いや……割と薄着で伸びをするのは視覚的にはご褒美なんですけど……股間に悪いのでやめていただきたい!

 背中伸ばしたせいで、強調された大きな2つの物体が俺の目を惹き付けてやまない! 

 

「とりあえず、司ちゃんを起こそっか。あの子朝弱いから」

「嫌というほど知ってます……まあ今日休日ですし、もう少し寝かせておいてやってもいいんじゃないですか?」

「ダメだよ。司ちゃん放っておくとお昼まで寝ちゃうから」

「あー……なるほど。じゃ、俺は飯の準備してますね」


 未来さんは頷いて、奏多の部屋に向かっていった。

 さて、と……俺も始めますかね。


◇◇◇


「むぅー……お姉ちゃん嫌いです」

「ごめんごめん、許して司ちゃん! この通り!」


 朝食の準備の途中になって、奏多は寝癖であちこち跳ねた髪をして、未来さんに背中を押されながら出てきた。

 で、どうして奏多の機嫌が悪いのかって言うと……。


「せんぱいのベッドに潜り込むのはわたしの役目だっていうのにー!」

「ごめんってば! つい昔の習慣で部屋間違えちゃったんだってー!」

「気にしないでいいですよ。そんな役目そもそも無くていいんです」


 姉に自分が毎朝やってることをうっかり取られてむくれてるというわけ。

 しょーもな。


「……お姉ちゃんはいつまでこっちにいるんですか?」

「んー……とりあえず1週間ぐらいかな。休み過ぎかもしれないけど、社長は逆に休まなさすぎって会社の人に言われちゃって……今の時代そういうのにうるさいからね」

「じゃあ明日一緒に買い物行ってくれるなら……許してあげます」

「うんうん、もちろんいいよ! 可愛い妹の頼みだもんね」

「わぁい! お姉ちゃん大好きっ!」


 うーん、この姉妹愛。今この空間に俺っている? 

 

「もちろん、せんぱいも一緒ですからね?」

「俺はいい。姉妹水入らずで楽しんでこい」

「うーん。私も大地君がいてくれた方が助かるかな。荷物も多くなりそうだし、それに妹と一緒に暮らしてる君のことをもっとよく知りたいし」

「俺でよければ、喜んでお供させていただきましょう!」

「せんぱいっ!?」


 断れる要素がどこにあると?

 むしろ、俺はこの為だけにこの世に生を受けたと言っても過言じゃないね! 


「どうしてお姉ちゃんの言うことはすぐ聞いちゃうんですかぁ!」

「バッカお前、あれ断ったら男としての機能が一切無いことになるだろ」

「……やっぱりお姉ちゃん嫌いです!」

「えぇ!? なんで!?」

 

 機嫌を直したはずの奏多が再びむくれながらそっぽを向いたのを見て、未来さんはわたわたとし始めた。


「わたしからせんぱいを奪うような人は、例え身内であっても嫌いですっ!」

「あはは。司ちゃんは本当に大地君のことが好きだねー。大丈夫、私にその気は今の所全く無いから!」

「ぐほぁっ!?」

「え!? 大地君!? どうしたの!?」


 まさかのこっちに流れ弾が!? 無意識だろうけどすげえ凹む! 希望は死んだ! 


 俺は胸を抑えて蹲り、奏多はそっぽを向いて拗ねて、未来さんは俺と奏多に挟まれておろおろしているというカオス的な空間が見事に出来上がってしまった。


 昼からどこかに気分転換に行こう、そうしよう。

 土曜日の朝だっていうのに、なんとも騒がしい感じで、休日が始まった。

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