第16話

side 春宮紫苑

光りが収まり、周りを見ると誰もいなかった

このダンジョンの内装はどこも似たような物なのでよくわからないが、おそらく僕もどこかに転移されられたのだろう

さて、……どうしたものか






僕は弱い

周りの騎士曰く、だいたい僕は普通の兵士より少し強いくらいらしく、魔力は一般人より少し多い程度

そんな僕がこんな危険な迷宮に一人、さてどうなるでしょうか?

答えは間違いなくゴブリン達の餌だ

さて、僕が今できる選択肢は…

①救助を待つ

②仲間を探す

③ダンジョンから脱出する

④ゴブリンの親玉を倒す

…うん、無理ゲー

正直詰んでいる

マジでどうしたものか…


「ギャギギグャ!」

「ギャグギャゲグャ!」

「ギガキャグギグ!」


考えごとをしていると聞き慣れた鳴き声が聞こえたので、聞こえた方を向くともう恒例のゴブリンがいた

…全く、考える時間もないか

早く倒さないと面倒なので、たかが3匹、さっさと倒すか






僕は今全力でゴブリンから逃げている

舐めてた。迷宮を舐めていた

何故って?

それはな――


「クギググキキ!」

「ギャグギギググャ!」

「ギャグギギググャ!」

「ギギグャグュ!」

「グガギキグ!」

「ギグャガゴグ!」

「ギャグギガギャグギガ!」


――無数のゴブリンに追いかけ回されているからだ

どうやら戦闘音を聞きつけてやってきたらしい

最初の方は少なかったが、気がつけばこんなことになっていた。しかも今逃げている間も数が増えている気がする

ヤバイ死ぬ、本気で死ぬ

しかもおそらく全員上位種だろう

そんな気がする

いつまで逃げ逃げ切れるか……






side ???

あーあ

全く、うっかりしているなぁ

紫苑は

しょうがない

少し手助けをしてあげよう

面白い物を見せてくれたしね

少しばかりのお礼というものさ

紫苑、

ボクをもっと楽しませてね

お願いだよ?






side 春宮紫苑

何故か追ってきているゴブリンの数が減っている気がする

どうにも先程から足音が少なくなっている

……まぁ、いいか

角を曲がると部屋があった

好都合だ

このまま、隠れてやり過ごそう

そのまま部屋に入り、扉を閉め、扉に背中をあずける

ゴブリンの足音は遠ざかっている

なんとかやり過ごせたようだ

……しかし、冷静になって考えるとロクにワナを調べもせず、部屋に入るとは随分と焦っていたようだな、次からは気をつけないとな…

周りを見渡すと何もないただの部屋だった

大きさは小部屋というには大きく、大部屋というには小さいといった感じである

しかし、何もなくてよかったな…

罠なんてあったら即、死んでいたぞ


カパッ


?なんか壁が開いたぞ?


「アア、アノ恐ロシキ者共メ……、コレダカラ人間程恐ロシキ者ハイナイノダ……。ソシテ何故誰モソノコトヲワカッテクレヌノダ……? ?誰カイ……」


あ、ヤベッ、見つかった


「??!何故ダ!?何故ココニイル?!エエイ!ココマデ追ッ手ガイルトハナ!!恐ロシキ者共メ!!ダガココデ死ヌ訳ニハイカンノダ!!死ネ!!“〈フレイム・バースト〉!!”」


いきなり、魔術ぶっぱなしてきやがった

だが詠唱なしで放たれた物であり、スピードはそこまでだったうえ、距離があったため、かろうじて避けることができた

……地面が黒く焦げてやがる…

回避できなかったら丸焼きだったな…

どうやら威力に全振りしていたみたいだ


「?!コレヲ避ケル、ダト?!エエイ、恐ロシキ者メ!」

「……なぁ、何で僕のことを恐ろしき者とか言うんだ?どう考えてもあんたのほうが強いでし、恐ろしい存在でしょう」


僕でもわかる 

コイツはヤバイ

見た目は痩せこけたゴブリンだが、身に秘められた魔力が桁違いだ、持っている杖も質素な物だが、強い力を感じる

こいつがゴブリンの親玉か


「フン!ソレハソウダロウ。貴様ラ人間ハ確カニ最初ハ弱イ、最初ハナ!ダガ!強クナル!我ラヨリモ!!ソシテ殺ス!竜ヲ!巨人ヲ!ソシテ悪魔ヤ神々デサエ!!ソンナ者達ヲドウシテ恐レナイトイウノダ?ドウ考エテモ恐レルシカナイダロウ!恐ロシキ者共メ!!」

「……」

「ダカラココデオ前ヲ殺ス!死ヌガイイ!“〈フレイム・バースト〉!!”」


魔術を再び放ってくる

どうやらこちらを確実に殺す気らしい


「へぇ、アンタの考えはわかったがここで油を売っていてもいいのか?お前が逃げてきた奴らが追ってくるかもしれないぜ?」

「問題ナイ。ココニ来ルマデニドノクライ距離ガアルト思ッテイル?ソレニ我ガ配下達モドレクライイルト思ッテイル?貴様ヲ殺シ、我ガ逃ゲル方ガドウ考エテモ早イヨウニナッテオルワ。ソウ作ッテオイタノダカラナ」


どうやら抜かりはないようだ

そして安定の格下認定

悲しくなってくるなぁ


「シカシサッキカラチマチマト我ノ魔術ヲ避ケヨッテ……。仕方ナイ。アマリ使イタクハナカッタノダガナ!迷宮ヨ!我ニ力ヲ!」


減っていた魔力が回復していく

あークソッ

魔力が減ってきたところをボコボコにするのは無理そうだな

しかし、さっきから魔術だけしか使ってこない

これなら接近すれば……!


「フン!オ前ノ考エナドオ見通シヨ!イデヨ!我ガ配下達ヨ!!」


おいマジかよ

自分の配下召喚しやがった

召喚されたのはオーガが二匹だけだ

一匹は3メートルくらいだが、もう一匹は2メートルくらいだ

しかし、二匹とも武器は違うが全身鎧フルアーマープレートを装備している

全く、そこはゴブリンを召喚しろよ


「サァ、アレヲ殺セ!オーガ達ヨ!!」

「があああぁぁ!!」 

「があぁぁ!」


オーガが吠え、襲いかかってくる

一撃でも食らえばおしまいなのでひたすら回避に徹する


「あっつ!」


顔すれすれに炎の矢が通り過ぎる

あいつの援護もこれまたウザい

今かろうじて防ぐか回避できているが、そろそろ限界である

仕方ない、一か八かだ!





side 名もなきゴブリン・キング

恐ロシキ者ガ持ッテイタ槍ヲ捨テ突ッ込ンデキタ

スグサマオーガガ武器ヲ振ルガ、当タラナイ

オーガノ攻撃ハ威力コソ凄マジイガソノ割ニハ遅イ

ドウヤラ我ヲ殺スツモリラシイ

剣ヲ抜キ、振リカザス

ソノママイケバ我ノ頭蓋ハ砕カレルデアロウ

ダガ、無駄ダ

我ニハ【守護の指輪】トイウ魔道具ヲ持ッテイル

コノ魔道具ハ魔力ヲ流シテイル間障壁ヲ張ル物ダ

タカガ剣ヲ振り下ロスダケノ攻撃ナド容易ク防ゲルデアロウ

魔力ヲ流シ、結界ヲ張ル


「“〈王殺し〉”」


何?武闘魔術ダト?

シカシ、剣ニ込メラレタ魔力ハ雀ノ涙

法則ニ干渉デキルヨウナモノデハナイ

ドウセ失敗スルダロウ


パリィィン!

ガチュ!


ハ?

ナゼ、我ノ腕ニ奴ノ剣ガ食イ込ンデオルノダ?



side 春宮紫苑

ただ意識を集中させ、自分にあるなけなしの魔力を剣に集める

オーガなどに目もくれずゴブリンに突撃する

殺してやる。だから死ね、死んでしまえ、と祈る呪う呪う祈る

魔術には意思が、この世の理を変える、変えてやるという意思が重要だと聞いたことがある

もし、それが正しいというのなら今の僕に出来るはずだ。出来ない訳がない

お前を殺す。

言葉が自然と口から漏れた


「“〈王殺し〉”」


ああ、この上なくぴったりだ

どうやら今更気がついたが障壁を張っているらしい

生半可な攻撃など無効化されてしまうだろう

しかし、これはお前を殺すモノ

たかだか、障壁の一枚など何の障害でもない

剣と壁がぶつかる

そして――


パリィィン!

ガチュ!


剣が障壁を破壊し、ゴブリンの腕に刺さった

ゴブリンが驚愕している

…まあ、僕のなけなしの魔力では魔術が失敗する確率の方が高かっただろう

奇襲が成功したというやつだ

さて、このまま奴を――





ぐちゃり

ぐしゃぁ






side ???

あーあ

ゲームオーバーか……

全く、君は面白い物を見せてくれたと思ったら直ぐこれか……

しょうがない

君はいいかもしれないが、ボクは全然よくないからね

全く、そう何度もボクの手を煩わせないでくれよ

紫苑





ーーーーーーーーーーーーーーー

8/25 結界→障壁に変更しました

   最後のside 春宮紫苑の部分

   を大幅に改稿いたしました

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