ココロとセツナ

とさまじふ

5月7日、16時。

第1話 出会いの記憶

 5月7日、16時。


 岩時神社いわときじんじゃの鳥居の下で、ぐったりと倒れている男の子を拾った。


 名前は、海斗かいとというのだそうだ。


 海斗は私が見つけ、声をかけても起きないので、兄のそうが神社カフェまで担いで運んだ。


「脈はあるし、息もしているから、寝てるだけみたいだな」



 兄は安心した様子でつぶやいた。



 海斗は、美少年である。


 背が高く、すらっとしている。


 今までお目にかかったことの無い、儚くて可憐な美しさ。




 私は、初めて男の子を見て、どきどきした。



「ここは…」



 彼は、目を覚ました。



「神社カフェ。休憩室だよ。あなた、鳥居の下に倒れてた」



 彼はゆっくりと、寝かされていたソファから起き上がり、少しずつあたりを見回した。



「そうだ、俺、道に迷って…」



 この神社を探しながら広い森の参道を歩いているうちに、頭の中が靄に包まれ、方角が皆目わからなくなってしまったそうだ。


 その後彼は何日もの間、一人で道をさ迷い続けたのだという。



 そして、この場所で、気を失った。



「この神社に、ようやく辿り着いたと思ったら、安心して…」



 自分は、助かったんだ。と、彼は少しホッとした表情を見せた。




「ここに来たかったの?」


 


 彼は頷いた。




「どうしても、ここに来なければいけないような気がした。君は…?」




 海斗の美しい切れ長の瞳は、私の目をじっと見つめた。




「マナ。ここに住んでる」




 彼は突然、自分の顔をじっと覗き込む私を見つめ、驚いた顔をした。




「…君に、会ったことがある。岩時祭りの時」





 7年前の、岩時祭り。


 神社の東側にある神楽殿の前で、9つだった海斗は見たことの無い、まぶしくて美しい神輿に魅入られて、茫然と立っていたという。



 何が起こったのだろう。



 いきなりその神輿が燃え上がり、業火がそれを一瞬で、焼き尽くした。



 その時、大きな炎の中から、ひとりの少女が姿を現した。



「それが君だよ」



 彼は、朦朧とした表情に戻り、こう続けた。


 

「どうして、あの時の事を…はっきりと思い出せないんだろう。でも、あれは確かに君だった」




 私も急に、思い出した。





 あの時の、あの少年だ。





「海斗、あなたは…」





 私は驚きのあまり彼の両頬を、小刻みに震える両手で挟んだ。









「…見てはいけないものを、見てしまった」









 多分、海斗はその時から、ただの人ではなくなってしまったはずだ。





 炎の矢がたくさん、心に刺さって。





 きっと、痛かっただろう。

 7年間、苦しかっただろう。





 私は涙が溢れそうになり、海斗を見つめながらこう言った。





「ごめんなさい」








「何故、謝るの?」








 海斗は、不思議そうに聞き返した。







「私は、あなたをバラバラにしてしまった」


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