第14話 空気も文字も読めないウチを皆は嘲笑う

大学1年、季節は秋。


ウチは大学で色々対応してもらいながらどうにかやっていけていた。


そんな中、フィールドワークという事で、様々なボランティア活動から1つ選び、8〜9人の班でそこの地域へ出向くという大学の強制イベントがあった。


成績に関わるため、行かなきゃ仕方ない。

ウチは適当に1つ選んだ。しかし、この判断が間違っていた。


後日、班分けが発表された。いざ会ってみると、そこは陽キャラというか、男女問わず勘違いウェイ系やらの多いとこに入れられてしまい、ウチはすぐに浮いた。


嫌な感じを抱えつつも、ウチは班のメンバーに字の読み書きが苦手な事を伝えた。


しかし、これも裏目に出ることになった。


つまらない冗談を言って異様に盛り上がってたり、くだらない下ネタを大声で話していて、初日からウチはうんざりしていた。


すると彼らは、ウチをつまらない奴として、すぐに村八分とした。


ウチは寝たいのに、叩いたり蹴ったり、挙げ句の果てには上から勢い良く乗ってきたり。

また、ウチの言い間違いをずっといじったり、「ウチ」という一人称もいじってきた。


イライラゲージはマックスに近かった。


しかし、数の暴力というのは恐ろしいもので、何かトラブルが起きた場合、悪いのは周りに同調出来ないウチという事になった。


仮にウチがキレても、

「何冗談にマジになってんだよwww」みたいな感じで取り押さえられた。


早く帰りたい……そう願いながら最終日を迎えた。


いじめは夜に更にエスカレートした。

夜11時を回り、いつまでも部屋で騒いでいた彼らにウチはうんざりして、ウチは布団に潜っていた。


すると、彼らはウチに目を付け、いたずらを仕掛けてきた。叩く蹴るでは済まされない。終いには布団も取られた。


そしてウチを取り押さえ、1人が文字が書かれた1枚の紙を見せてきた。


字の読めないウチでも、時間をかければ読めない訳では無い。


そこには「バカ」「死ね」などの中傷の言葉がびっしりと書いてあった。


そして紙を見せてきた男は見下した目で言ってきた。





「あ、悪ぃwwお前字読めないんだっけなぁwww」

「何て書いてあるか分かんねぇべww?」

「さ〜て、何て書いてあるでしょうか〜www?」













ウチの中で何かが切れた音がした。














その数秒後は、ハッキリと覚えていない。














気がつくとウチは、相手の首を絞めていた。














幸い相手は気を失うなどのことも無く、事件とはならず、顧問にも知られる事はなく、その場で内々に処理された。


ウチはあと一歩で殺人犯になるところであった。


最終日の夜だったので、次の日は午前中に解散となった。


班の皆は、ウチの事を昨日とはまた違う目で見て、半径5m以内には誰も近づかなかった。


後日、一部で噂は広まったらしいが、学部学科も全てシャッフルした班編成だったので、届く距離には限界があった。


班の皆が先生に言わなかったのは、報告したら自分たちがフィールドワーク中に毎日行った執拗で陰湿ないじめがバレる事を気にしたからかもしれない。


あくまでウチの予想ではあるのだが。




後日、ウチはこの事実を母と共に行った精神科医に伝えた。


数々の誹謗中傷を言われた事を正直に告白した。







しかし、医師から返ってきたのはとんでもない言葉だった。










「それは、人間関係が上手くいかなかったストレスから来る『妄想』の可能性が高いです」


「精神を強く持てば、そういう声は聞こえなくなりますよ」


「うつ病の人に良く見られる症状です。お薬出しときましょうか?」
















「…………大丈夫です」







震える怒りを堪えて、ウチはか細く返事をした。









どうして誰も分かってくれない…!?

どうして目の前のウチを否定する……!?

どうしてウチの世界は、何もかもが歪んでいる……!!??





どうして…どうして……どうして………!!!!











高校の時に人に触れる温かさを知った。

仲間の重要性を知った。

ようやく人を好きになれた気がした。







だけど、その先の世界は、ウチにとって、あまりにも残酷過ぎた。














ウチは、世界に再び絶望した。

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