第11話 空気を察してきた世界でウチは逃げる

ウチは高校2年生になった。大会ではそれなりに勝ち進み、有段者に仲間入りする事も出来ていた。


同期や先輩の数は少し減っていた。ウチの知らない所で色々あったのだろう。

何か、多分知らない方が良いのかもしれない。知ったところで恐らくどうも出来ない。


新入生も入り、先輩として指導してかなくては…!


……そんな事を考えてるともう高校選手権予選が迫ってきた。


世の中段取りってものはもう少し割り込み運転の精神を控えてもらいたい。


ウチは今年はメンバー入りを果たした。絶対に勝つと気合いを入れた。







団体戦には魔物がいる。


誰が言い始めたのか分からないこの言葉。しかし地味に的を射ている。


独自の緊張感、押しつぶされそうなプレッシャー。

去年のウチには感じられなかったものが後ろからのしかかって来る。


分からないままの方が良かったかもと少し思った。


自分の勝敗はチームにも関わる。自分の声次第で仲間が乗ってきたり、下手したら崩れてしまう可能性もある。


今は2次予選。

1次予選から勝ち上がったのは6校。

ここから出場出来るのは2校。

(この年から2校出場出来るようになりました。)


まずは3校ずつにくじで分け、リーグ戦を行う。

ウチらはまず1試合目は危なげなく勝利する。


次に2回戦。1つの正念場だ。

とても強い私立校。一瞬足りとも気が抜けない。


試合はとてつもなく混戦を極めた。


試合に出たメンバーはウチと先輩たち4人。


試合は同時に進んでいくため、1勝したか1敗したかは隣から聞こえてくる仲間の声で判断する。


これ1つでかなりチームは大きく動く。1勝の声1つで畳み掛けるように他の試合も勝負が決まる事も珍しくない。


ウチはシーソーゲームの展開から抜け出せず苦戦していた。




すると、先輩から「1勝!!」という声が聞こえた。


少し楽になった。後2勝……!!


しかしそれも束の間、向こうから「1勝!!」という声が聞こえた。


1勝1敗。ここから抜け出さないと…しかしそれでも対戦相手と差は離せない。



すると、先輩から「2勝!!」という声が。



あと1勝だ……!!勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ…!!!!



だが、まだ差は離せない……。




そんな中そこからすぐに向こうから声が聞こえた。


「2勝!!」




残りはウチのとこだけ。チームは互いに2勝2敗。


勝った方が次に試合に進め、負けた方はそこで散る。


とんでもなく太い鉄パイプで胸を貫かれたようだ。ウチに大きな穴が空いた。異様なまでのプレッシャー。逃げ出したいぐらいだ……。


そんな重圧と戦いながら、目の前の相手と死闘を繰り広げる。


そしてついに……






運命戦。






※運命戦とは、自分も相手も残り1枚になった状態を指す。

自陣を先に0にした方が勝ちなため、読まれるのは残り1枚。

自陣側が読まれた方が当然有利ではあるが、読まれる札はランダムなため、運を天に任せるしかないのだ。





よって、「運命戦」。




周りは皆祈っている。味方も、相手も。


潰れるぐらいに両手を握りしめ、こちらを見ることも出来ていなかった。


ウチは強すぎる緊張を浴び続けたが故に、不思議と落ち着いていた。向こう側に到達したのか。


だけれども、願うことは 1つ。


「出てくれ…」


誰にも聞こえない声で呟いた。




そしてーーーーー







決着。









ウチは叫んだ。













「3勝!!!!!!!」










女神が微笑んでくれた。皆は泣きながら駆け寄ってくれた。


ウチは、しばらく立ち上がれなかった。







だが、これで終わりではない。まだもう1試合残っている。


これに勝てば文句無く全国大会出場が決まる。


嘱託顧問が、次の試合も同じメンバーで行こうと言った。


しかし、ウチは思った。さっきのプレッシャーをもう受けたくない。背負いたくない。


そんなウチは


「さっきから頭が痛くて体調が悪い。休ませて欲しい」





ウチは小さな気持ちから嘘をついた。逃げたのだ。


そして、同期が出ることになった。


先輩4人と同期1人。最後の試合。













負けた。







最後に同期が負け、2勝3敗。


だが、最後の勝ち星計算にもつれ込み、ウチらの高校は全国大会出場の2校目として選ばれたのだ。



だが、喜ぶ中、ウチと同期には見えない確かな溝が出来ていた。




腑抜けたウチが全国大会でチームのために活躍出来る訳もなく、ウチらの高校は不戦勝からの2回戦で敗退した。





そして、全国大会が終わった後、











同期は部活を辞めた。





原因がウチなのかは分からない。だけど、もう聞くことは出来ない。





先輩たちは引退し、そのまま季節は流れた。




同期はウチを入れて、3人になっていた。



空気を理解するようになってきたウチは、自分の保身にしか使わない愚か者になっていた。

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