第39話:陰気なフード男は、ドグラス達に力を与える〈旧パーティ視点〉

 ──翌日。


 ドグラスとフォスター、それにギャガと名乗るフード付きローブを着た男は、冒険者ランクの判定試験会場である武道場にいた。


 試験会場は王立の武道場だ。

 50メートル四方のスペースがあり、天井も高い。


 壁際には3名の判定委員が立っている。



 ランク判定試験は次のように行われる──


 判定委員の一人は、傀儡くぐつ魔法の使い手。

 傀儡魔法とは、操り人形に命を吹きこみ、操れる魔法だ。

 操り人形と言っても、魔法により、人間そっくりの姿になる。


 その操り人形と受験者は戦う。

 操り人形は段階を踏んで、徐々に強さを増していくのだ。


 受験者がどの強さまでを倒せたか、互角に戦えたかをベースに、3名の判定委員がランク判定する。


 ──そういう流れだ。


 この町の傀儡魔法使いのランクはAランク。

 つまり戦う操り人形も、Aランクまでの強さしか出せない。


 だから最強の操り人形と互角に戦えてAランク判定。

 圧倒して倒せると、Sランク判定となる。



 ──まずは最初にドグラスが試験に挑む。


 会場中央に立つ操り人形に、傀儡魔法がかけられ、ドグラスと同じ大柄な重騎士の姿に変化した。


「さあ、ドグラスさん、頑張ってくださいよ。あなたにはさっき、ヘイトレッドの魔法をかけました。だからあなたが恨みや怒りの感情を大きくすればするほど、あなたのパワーが上がります」


「わかったよギャガ」


「アディとキャティでしたか。彼らのことを思い出しながら戦うのです」


「そうだな。アディとキャティのヤツめ……」


 ドグラスは二人の名前を口にするだけで、目の奥の怒りの炎が、メラメラと大きく燃え上がる。


「では、戦闘を始めます。傀儡人形はドグラスさんと同じDランクの強さから始めます」


 判定委員がそう告げ、試験が始まった。


 ドグラスはサーベルを力強く振り回し、傀儡人形をガンガン攻めまくる。

 重騎士姿の人形は、ドグラスに手も足も出ない。


 傀儡魔法士は、人形の強さを上げていくが、ドグラスの圧倒的優位は変わらない。


 とうとう判定委員は、人形の強さをAランクにまで上げた──


「これが最高の強さだよな、人形さんよ。さあ、カタをつけるぜ」


 傀儡人形がドグラスに剣を打ち込む。

 しかしドグラスはそれを自分のサーベルで軽くいなして、素早く踏み込んだ。


 防御力もスピードも、傀儡人形を圧倒している。

 Aランク相当の力を持つ傀儡人形を、だ。


 ドグラスはサーベルを振りかざし、目にも止まらぬ速さで振り下ろす。


 重騎士人形は避けようとしたが、間に合わない。

 縦に真っ二つに切り裂かれ、床に崩れて落ち、人の姿から人形の姿へと戻った。


「おおーっ!」


 判定委員3人から歓声が上がった。


「凄い! これはSランク間違いなしですな」


「そうですなぁ」


3名の判定委員は協議をして、大きな声で宣言した。


「ドグラスさん! Sランクに認定します!」


 ──そんな声が、会場内に響き渡った。


「ふふふ、やったぜ」


 武道場の隅で待つフォスターとフード男の元に戻ったドグラスに、二人が口々に声をかけた。


「凄いな、ドグラスっ! Sランクだよ!」


「どうですか、ドグラスさん。ヘイトレッドの威力は?」


「ああ、ギャガ、凄いよ。身体中にパワーが漲っている」


「それは何よりです。いやはや、ドグラスさんの恨みのパワーが大きいからですよ。ふふふ」


 ギャガは満足そうに、ニヤリと笑みを浮かべた。

 そしてフォスターにも語りかける。


「さあ今度はフォスターさんの番ですよ。あなたにも、同じような力が出せるはずです」


「そうなのか? 頑張ってくるよ!」


 フォスターの相手は、魔導師に姿を変えた傀儡人形。


 ギャガの言葉どおり、フォスターもAランク相当の傀儡人形を、強力な攻撃魔法で圧倒して、こともなげに倒し、Sランク判定を得た。


 認定委員にSランク判定の証明書を発行してもらい、ドグラス達はギルドに向かう。




 ギルドで受け取った、Sランクを表記した身分証。

 それを手にして、二人とも満足そうにニヤニヤしている。


 そこにたまたま通りがかった、二人の知人である男性が声をかけた。


「おお、ドグラスとフォスター、久しぶりだな」


「よお、久しぶり」


 ドグラスは機嫌が良いのか、笑顔で返事をする。


「そう言えば、アディはお前らのパーティを抜けたのか? 王都のギルドで、アディとキャティが、勇者検定会の申し込みしたのを見かけたけど」


 ドグラスは、勇者検定会のステータスの高さを知っているようで、顔をしかめた。


「何だと? アディとキャティが勇者検定会に? アイツら風情が?」


「おやおや。噂のアディとキャティですか? 勇者検定会とは、なんですかな?」


 ドグラスから説明を聞いたギャガは、唇の端をニヤリと上げた。


「ほぉ。これはこれは。ヤツらに仕返しをする、またとないチャンスですな。お二人も参加なさったらいかがですか? 私もお手伝いしますよ」


「そうか! Sランク認定を受けたから、俺たちも参加資格があるぞ。強くなった俺たちの力を、アイツらに見せつけてやろうぜ、フォスター!」


「そうだねドグラス! 勇者検定会でアイツらをギッタギッタにして、恥をかかせてやろう」


「いいですねぇ。サイコーですねぇ」


 我が意を得たりとニヤつくギャガ。

 その視線の先には……


 どす黒いものを内包したような、ドグラスとフォスターの笑顔。


 こうしてドグラス、フォスター、ギャガ、三人のパーティは、勇者検定会に参加することになった。

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