ユーリアの身体

 彼の持ってきた服のデザインは、正直ユーリアの趣味には合わなかった。白く飾りがの無いワンピース。フワッとしたスカートは膝上よりもだいぶ短かい丈しか無く、ふとした拍子にショーツまで見えてしまいそうな頼りなさを感じた。

 ただ唯一、彼女が気に入ったのはその材質だ。何の素材かは分からない。獣臭もしない為、動物性の革では無いのかもしれない。なんにせよ肌触りがよく、怪我で敏感になってしまっている皮膚でも気にならないのは大きい。

 最も、彼女の外傷部。見える所には既に包帯やガーゼといった治療の跡があり、患部が直接服に触れる事は無さそうだが。

「うーん……胸元がちょっとキツいかも」

 大きな不満が一つ。サイズが若干合わない事。



「もう着れたかな?」

 ドアの向こうから聞こえてくるのは先程姿を見せた男の声。

 ユーリアはその声にビクリと肩を上げると、慌てて再度自分の着こなしに問題が無いか確認をする。

 スカートの裾引っ張り、くるりとその場で一回転。

 よし、と小さく呟いて。


「大丈夫です。お入り下さい」


 ドアが開き、彼が部屋に入ってくる。

 先程まで付けていた黒いマントを外し、捲った袖からは白く細い腕が見えていた。


 彼はユーリアの格好を下から上へと眺めると。

「うん。可愛らしい子には何を着せても似合うね。良かったよ、女性モノの服をとっておいて」

「ど、どうも……」

 可愛らしい子、に思わず反応してしまい言葉に詰まる。

 彼は、うんうんと笑顔で頷くと、包帯やガーゼのついた膝や肘を見つめ、ユーリアにベッドに腰掛けるように勧める。

 言われるがまま、ユーリアはベッド淵にちょこんと腰掛けると、彼は先程引き寄せていた椅子に改めて腰掛け、ユーリアの目を見つめ口を開く。

「寝ている間に目立った外傷部分には勝手に治療させて貰いました。治療部位で痒かったり、感覚が無かったり、といった場所はありますか?」

 その眼差しは真剣そのもので。ユーリアは思わず視線を逸らす。

「特に違和感は、ないわ……治療してくれてありがとう」

「それならよかった。どう致しまして」

 安心したように彼は頷く。椅子から手を伸ばし、机の上に置いてあった紙に何やら書物を始めた。

 しばしの間。そのタイミングで、彼女は思い切って口火を切った。

「えぇ……と、ところで。私だいぶ汚れていたと思うのだけど……もしかして、お風呂に入れて、くれ、たり?」

 それは、ユーリアがずっと気になっていた事だった。

 自分が下着姿で寝ている事に気がついた時。自身に付いた泥や砂埃といった汚れが無かった事。何より、自慢の髪が酷い有様になっていたのに、今は首を振れば遅れてサラサラとした金髪がその後を追ってくる。

 まるで汚れなど最初から無かったように。

 その理由を思い浮かべて羞恥で荒れ狂うユーリアの心。冷静に問い掛けようとした言葉は、震えて途切れ途切れ。

 そんなユーリアの心情を知ってか知らずか、男は手振りで落ち着くようにヒラヒラと。

「大丈夫です。確かに服は脱がせてしまいましたが、それ以上貴女が恥ずかしがる様な事はしていませんよ」

「え……ならどうやって」

 そう問いかけるユーリアに、彼は言葉では無く動作で示す。

 右手人差し指を、まるでステッキの様に見立て、振るう。

 その指先には淡い光が灯、光の線を描いた。

 どこからともなく子供の笑い声の様な声が響く。最もその声はユーリアには聞こえてないようだが。


「それって……まほう?」

 驚愕の表情を浮かべ、光の消えた指先を未だに見つめるユーリア。

 その問いに、少し困ったように、彼は言った。


「これは、そんな便利なモノじゃないですよ」

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