第29話離散した仲間

 波紋をイメージしそれをその範囲を広げていく。

 まず一メートルに範囲を広げる。

 それを少しずつ拡大していく。

 五メートル、百メートル、一キロメートルと精神の感覚を広げていく。


 王様は精神波の範囲を広げることに集中してください。あたしは索敵と探知に集中させてもらいます。


 ラルヴァンダードは意識をさらに集中し、バベルの塔の概要を把握しようとこころみる。

 春香の精神エネルギーが塔全体を覆っているのでそれは容易だった。


 外宇宙通信探索統合基地バベル。

 高さ三百メートル、階層七十階。

 敷地面積三千メートル。


 前の王様が造ったバベルの塔を堕天使アスタロートが怪物がはびこる魔の迷宮に変えてしまったのね。あたし、くやしいわ。

 もしやつを見つけたら、ただじゃあ、おかないんだからね。

 それよりもまずは、あたしたちの現在位置ね。

 あたしたちは今、二十七階層にいるわ。


 はあはあと春香の息が荒くなっている。

 額から汗がながれ、かなり辛そうだ。


 レーダーのように精神波をひろげ、巨大な塔全体をつつむのはかなりのダメージを肉体に与えるようだ。


 王様、もうすこしがんばってね。

 離ればなれになった仲間たちを探しだすから。

 ラルヴァンダードは塔内をくまなく探索する。彼女は精神を春香のひろげきった精神波にのせ、塔内に人間の存在を調べ尽くしていく。

 ラルヴァンダードは同時に塔の地図を製作していく。


 あ、見つけたわ。まずは獅子雄くんと零子さんね。

 四十二階層にいるわね。まずは彼女たちと合流するのが最善ね。


 あとは……。

 いたいた。

 美穂さん、海斗くん、空美さん、竜馬くんは六十五階層の大きな部屋に閉じ籠っているようね。

 この塔の特徴として、上層にいくほど敵の強さが上がるようね。

 閉じ籠って戦っているのは正解かも。

 でもいつまでももつかわからないから、早く合流するほうがいいわね。


 春香の息が熱を帯びてさらに荒くなる。

 ポタリと大量の汗が床におちる。


「ラルヴァンダード、皆と話せないかな」

 荒くなる呼吸をどうにか整え、春香は言った。

 ええ、大丈夫だけど。体の負担が大きくなるから要点だけ話してね。


 ああ、わかったよ。


 そうね、零子さんと空美さんが比較的チャンネルがつながりやすいから、つなげてみるわ。


 春香はさらに精神を集中させ、零子と空美の心にメッセージを送った。

 これからそちらに向かうから、待っていてほしいと。僕たちがいくまでどうか無事でいてほしい。


 メッセージを送ったあと、春香は床にしゃがみこんだ。かなりの疲労のため、立ち上がることができない。

「すごいわ、初めての精神感応でここまでできるなんて。さすが王様ね。バベルの塔の地図マップを零子さんと空美さんにダウンロードしといたから、合流はしやすくなるとおもうわ」

 ラルヴァンダードがそう言うと村雨丸が心配そうに春香の顔をのぞきこんでいた。

 すぐに動くのは無理そうだ。

「さて、どうする。ほかの仲間の位置が特定できたとはいえ、春香くんがこの様子では……」

 サンジェルマン伯爵がきいた。

「その点はご心配なく」

 そう言うと、ラルヴァンダードは天女の羽衣をぬぎすてた。素っ裸になり、両手を地面につけ、四つん這いになる。

「服はアイテムボックスに収納しておいてね」

 そう言うと彼女は口を大きく開けた。

 口が左右に広がり、鋭い犬歯が生える。全身が黒い毛に覆われる。尻尾が生え、鋭い爪も生える。瞳の色が黄金色に変わった。


 ラルヴァンダードは巨大な黒豹へと変身した。

「さあ、あたしの背中に乗って」

 彼女は春香に言った。



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