第20話魔人との死闘

 疲労のためか、海斗の息はかなり荒い。

 英雄級の人物を創造し、活躍させたのだ、その体力の消費は生半可なものではなかった。

ただ、あの柳生十兵衛の言葉はなんだったのだろうか。

 もしかしたら、自分が創造したものにわずかの間ではあるが本物の魂が宿ったのかもしれない。

 だとしたら、この武器の可能性は計り知れないものがある。

「春香くん、ごめん。少し休ませてもらうよ」

 そう言うと海斗は後方に退く。

 その体を優しく支えるのは空美であった。

 海斗を抱きとめる空美の表情はどこかうれしげであった。


 柳生十兵衛の一撃でそれなりにダメージを与えたはずだが、やはり、完全には倒しきれていないようだ。

 むくりとめり込んだ壁からカインは立ち上がった。

 だが、まだふらついている。

 その隙に竜馬がアベルを抱き上げ、春香たちのほうに連れてくる。

「なぜ……」

 息も絶え絶えにアベルは言う。

「なに、べっぴんさんがこんなところで死ぬなんてもったいないだろう」

 明るい笑みを浮かべ、竜馬は言った。

「あんた、いいとこあるな」

 獅子雄がいう。

「知ってるよ」

 竜馬が答えた。

「空美ちゃん、すまないが、この子もみてやってくれないか。かなり疲れてるとは思うが」

 アベルの傷ついた肉体を空美に預けた。

「はい、かまいませんよ」

 疲労などものともしない笑顔で空美は言った。


「毒だけでも僕が抜いとくよ」

 春香が言い、スマホをかざす。


ドロップアイテム「魔人の劇薬」をアイテムボックスに送ります。


 レラジェの毒が抜けたことにより、アベルは少しだけ楽になったようだ。意識を失い、眠っている。


「決着は私らでつけるか」

 零子が言う。

「そうですね」

 美穂が同意する。

「やってやるか」

 獅子雄が前にでる。


 フシューフシューと荒い呼吸をし、魔人レラジェとなったカインは立ち上がった。

 再び、弓に矢をつがえる。

 毒をたっぷりと含んだ矢からは数滴がしたたり落ちる。床が黒くこげた。

「あんたと私でやつを押さえるから、とどめは美穂、あんたにまかせるわ」

 零子が獅子雄と美穂にいう。

「ああ、わかった」

「うん、了解」

 二人はそれぞれ答えた。


 半月のように力いっぱいひきじぼり、魔人レラジェは毒矢を放つ。強烈な速さで矢は空気を裂き、毒を撒き散らしながら飛来する。


 獅子雄は前進し、鉄の大盾で矢を防ぐ。

 固有特技ユニークスキル鉄壁を使用し、格段に防御力をあげる。

 毒矢は鉄の大盾に突き刺さる。毒矢は盾の真ん中部分を溶かして、床におちた。

 なんたる毒の強さであろうか。

「くそ、熱いな」

 鉄を溶かす毒の熱さに耐えきれず、獅子雄は鉄の大盾を床に捨てた。


 間髪いれずに零子は魔銃フェンリルの引き金をひく。ダンダンと銃弾が空を駆け、魔人レラジェの肉体に命中する。銃弾は鎧に弾かれ、床に薬莢が転がる。零子の射撃によって、魔人レラジェの動きが緩慢となる。


 床を激しく蹴り、美穂は空を飛ぶように駆け抜ける。

 固有特技ユニークスキル抜刀術と剣技流星を同時に発動させる。

 鞘から抜き放たれた菊一文字は音の速さで風を切り裂く。

 魔人レラジェは短剣を抜き、迎撃する。

 その短剣にも毒がたっぷりと塗られていた。


 まばたき一つせずにその動きを見た美穂は首をわずかに動かしただけでその攻撃をよけた。

 そのままとまらずに、菊一文字は胸甲の隙間に切りつける。

 一度手を引き、第二撃として刺突を繰り出す。

同じ胸甲の隙間に菊一文字の切っ先は背中までつきぬけた。後方に赤い花びらのような鮮血が飛び散った。

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