第3話 文化祭に潜入

 みっちゃんからおまじないの話を聞いた数日後、私は学校の門を潜る。って言っても、普段私が通ってる小学校の門じゃない。ユウくんの通う高校のだ。

 もちろん普段は、こんなところ入れやない。だけど今日は文化祭。私だって、中に入ることができる。普段ユウくんが過ごしている場所に、行くことができる。


 ドキドキしながら一歩を踏み出すと、そこはとても学校の中とは思えなかった。大人から子供までたくさんの人が歩いていて、辺りのテントでは、焼きそばやクレープといった、いろんなお店をやっている。売ってる人達って、みんなここの生徒なんだよね。


 もちろんこれは、文化祭って特別な日だからできること。だけど、何かを作ってお金をもらうなんて、大人だからできることだと思ってた。学校の中でこんな事ができるなんて、高校生って凄い。


 初めて見る世界に圧倒されながら、さっき入口でもらったパンフレットを開く。確かユウくんは、部活の出し物に出るって言っていた。

 パンフレットにはスケジュールと地図が載ってるから、そこでユウくんの言ってた部活の出し物が、いつどこであるのかを確認……と思ったけど、漢字で書いてあるから読めないや。


「あの、すみません──」


 近くの人に聞いていると、始まりまでもうあまり時間がなかった。慌てて人をかき分け、目的の場所に、体育館に急ぐ。


 息を切らせながら体育館に入ると、ちょうどステージを覆っていたカーテンが開いて、その向こうから激しい音楽が聞こえてきた。同時に、周りからたくさんの声があがる。


 私も一緒になってステージを見上げて、そして見つけた。真っ白なベースを構えるユウくんの姿を。


 軽音部。それが、ユウくんの入ってる部活だ。ステージにはユウくんの他にも二人いて、それぞれギターとドラムを演奏している。って言っても、私にはベースとギターの違いもよく分からないんだけどね。

 だけど、大勢の人から注目を浴びながら演奏を続けるユウくんは、とてもステキだった。

 激しくベースを鳴らすその姿は、普段見ているのとは違ったカッコよさがあって、なんだかますますユウ君のことを好きになったような気がした。


 ずっとずっと、いつまでもこのステージを見ていたかったけど、楽しい時間はあっという間に終わっちゃう。最後の一曲を終えたユウくん達に、その場にいた誰もが拍手を送って、ユウくん達もまた、そんな人達に向かって手をふっている。そしてその姿は、再び閉まっていくカーテンによって遮られ、だんだんと見えなくなっていった。


 私は、カーテンが完全に閉じるその瞬間まで手を叩き続けたけど、いつまでもこうしちゃいられない。ユウくんのステージは、もちろんとても楽しかったけど、このままここにいたって、ユウくんとは会えないままだ。


 また大勢の人をかき分けて、今度はステージの方へ、そして、さらにその裏手に向かって進んでいく。ステージ発表が終わってすぐなら、ユウくんはまだそこにいるはずだ。


 ステージの裏に続くドアを見つけると、ちょっとだけ開けて中を覗き込む。


「いた。ユウくん!」


 思った通り、そこにはユウくんがいて、他の人達と何か話しをしている。だけどその姿を見つけた私は、すぐに気づいてほしくて、気がつけば大声で名前を呼んでいた。


「藍、来てたのか?」


 声に気付いたユウくんは、私を見つけると、すぐにこっちに向かってやって来た。嬉しくなって、駆け足でその体に向かって飛びついていく。


「さっきの演奏見たよ。ユウくん、凄く凄くカッコよかった!」

「おっ、ありがとな」


 しがみつく私の頭を、ユウくんは笑いながら優しく撫でる。くすぐったくて、でも気持ちよくて、このままずっと撫ででもらいたくなる。そんな私達を見て、別の声が飛んできた。


「ねえねえ有馬君。その子だれ?」


 声のした方を振り向くと、さっきまでユウくんと話をしていた人が、興味深げな顔をしてこっちにやってくる。この人も確か、ステージで演奏していた中の一人で、ドラムをやっていた人だ。

 激しくスティックを鳴らす姿が素敵な、きれいなお姉さんだった。

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