第46話

「僕も卑怯だな。ずっと知らん顔してたんだから」

「なんのこと?」

「あいつはね、いつも僕に謝ってたんだ。つらい思いさせてごめん、逃げ出してごめんって。いつもいつも……交代するとき、首の後ろの痛みが始まると同時に僕に謝ってた」


 ――そうだった

 嫌なことが始まる前には、決まって首の後ろがやけに熱くなってチリチリと痛みだして……俺は隠れていたんだ


「それが合図だったのね。だから私にも」

「ああ。さっきあいつの思いが入ってきた時、気がついた。あいつはいつも僕を気遣っていたよ。なんだかおかしな話だけどね」

「そうね」

 彼女は桜を見上げたまま、少し笑って答えた。

「あいつは僕を救えないと言った。でも、僕はあいつを救える。違うかな?」


 俺を……救う?


「ええ。それができるのも、あなただけ」

「分かってる。ただ一つ心配なことがあるんだ」

「何かしら」

「これからあいつは普通の人と同じようになる。そして当然普通に夢を見るようになる」

 彼女はゆっくりと彼を見た。

「それじゃ、やっぱり偶然じゃなかったのね」

 彼もゆっくりと彼女を見る。

「ああ。あいつは気付いてないけどね」


 何だ?

 俺が気付いてないこと……

 偶然じゃない――夢を見る

 まさか……


「あいつは夢で現実を予知する力を持っている。それも、悲しい出来事のみを予知してしまうんだ」

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