捜索三日目 ~母親の証言~

第14話

「母親には……そうだな、夢でも見てもらうか」


 変わって翌日の早朝、玲の母親の家へ行く。

 玄関に出てきた母親に、ゆっくりと微笑みながら話しかける。

「僕を覚えていらっしゃいますか?」

 顔を見つめて考えていた母親が、はっと口元を押さえる。

「あなたは……川で――」

「ほう……さすがは彼女の母親ですね、記憶力がいい。覚えておいていただけて光栄です」

「一体……何をしに……」

 微笑んだまま、一歩近付く。

「あなた、昨日夢を見ましたね?」

「え……」

「姉妹が仲良く花見をしていた。とても綺麗な場所でしたね。まるでこの世とは思えないほど色とりどりの花々」

 母親が小さく震えだす。

「お姉さんは寂しいんでしょうかね。まるで妹を呼び寄せているような、そんな風景でしたね」

 見る見る顔が青ざめていく。

「我が子と花見ではなく妹と――さすがに自分の娘を死なせることは、お姉さんにはできないようですね」

「死って……たかが夢の……」

 さらに一歩――。

「そう、たかが夢です。ところで、玲さんは人と少し違うところ――いわゆる能力がおありのようですね」

 母親が何かに気付き、後ずさる。

「あなた……どうしてそれを」

「正夢、というんですかね、見た夢が現実に起こる現象。それを彼女が、現実を予知する夢だと思い込んでいたとしたら……」

 母親の目に涙が溜まる。

「お姉さんの想いが強ければ、玲さんも明日あたり同じ夢を見るかもしれませんね」

「玲……」

「そしてそれを、お姉さんが自分を呼んでいると思い、それが予知夢だと思い込んでしまったら――」

 母親は立っていられなくなり、壁に寄りかかる。

「おや、電話が鳴っているようですね。まだ生きていれば玲さんからかな」

 弾かれたように部屋に上がり、電話を取る母親。

 奥から妙に明るい声が聞こえてくる。

「――お姉ちゃんの夢を見たのよ。二人でお花見に行って……」


 自分が一緒に行ったことにしたのか……なるほど


「あんたはまだ駄目。孫たちにも絶対にこさせな――」

 そこまで聞いて、足早にその場を立ち去る。

「もう、充分だな」


 いつもの場所に戻る。

「問題は時間だな。朝はもう間に合わない。しかし、考えると迷いが生じる」

 少し高いところから川を見る。

「妥当なところで昼前、か。その頃、俺は会社にいないとな」

 いつもの彼にはめずらしく、声を出して笑った。

「まったく……おいしい役だけ取りやがって」


 時が経ち昼過ぎ、パトカーの音が近付いてくる。

 二階の窓からそれを見た玲が、真っ青な顔で走ってきた。

 何人かのやじ馬に混ざって彼女が黙って立っている。

 崩れ落ちそうになる瞬間、後ろからさっと手を伸ばし抱きとめる男。そのまま彼女の耳元でささやく。

「川岸に靴が揃えられていたことから自殺だろうって」と……。

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