現実の始まり

第3話

「うわっ!」

 俺は飛び起きた。

 文字通り、ベッドの上で飛び跳ねて目が覚めた。


 なんだ、今の夢は

 なんでこんな気味の悪い夢なんか……


「ふぅ……」

 大きくため息をついて台所へ向かう。

 冷たい水で顔を洗ったらすっきりして、少しずつ頭がはっきりしてきた。

「俺が夢をみるなんて。何か起こらなきゃいいけど……」

 この週末、珍しくひどい頭痛がして参っていた。

 普段飲まない薬が効いたらしく、喉が渇いて数回起きただけで丸二日ほとんど眠っていた。


 夢を見たのはそのせいなのか

 それにしても――


 夢で見た彼女の笑顔が忘れられないまま、俺は出勤した。

 月曜の朝は、まるで調子が出ない。それはいつものことだが、週末の頭痛や今朝の寝起きのせいで、余計でも頭が働かなかった。

 それでもなんとか仕事をこなしていた。

 休憩時間に同僚から、玲が連絡もせず休んでいると聞き驚いた。

 彼女は自分から積極的に人に連絡をするタイプではないが、休みの連絡を怠ったり遅刻をしたりするようなことは今までなかったからだ。

 それよりも、何より不思議だったのは、会社の駐車場に彼女の車が停まっているのに、休んでいるということだった。


 何か――あったのか……


 珍しく考え込んでいた俺に、彼女の上司が声をかけてきた。

「中川君。たしか君はうちの課の玲と同期だったよな」

「はい」

「今、仕事は忙しいか?」

この人はわざわざ嫌みを言うために俺を引き止めたのだろうか。

「……暇です」

「そうだろ……あ、失礼。実は君に頼みたいことがあるんだが」

 俺は慌てて言った。

「いくら彼女が休んでるからって、俺にその仕事は――」

「誰が君に仕事を頼むと言った」

「あ、やっぱり?」

「ふぅ……。実は彼女を捜してもらいたいんだ」

「えっ?」 

 俺は無意識のうちに、窓から桜の木を見ていた。

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