二章 怪盗獅子騙しと二人の魔女 その4

 舞台は数日後の魚の区のとある森に移り変わる。清子は大きな足音を立てながら森の中を歩いていた。突然彼女は怒鳴り声を上げた。

「幸灯ちゃぁぁぁんん! 出てきなさい! 出てきた瞬間八つ裂きにするわよ! あっ、間違えた。 出てきた瞬間レッスンを続けるわよ! もうちょっとで入門コース終わるんだからおとなしく出てきなさい!」

 幸灯は決して勉強するのは嫌いではない。むしろ好きな方だ。しかしちょっとのことでもへこたれてしまう、落ち込みやすい性格である。

 清子は決して頭が悪いわけではない。むしろ基礎知識も魔法も歳の割にはかなり習得している天才肌である。しかし、天才過ぎる故に凡人の気持ちを理解できないため、人に教えることは決してうまくはない。おまけに自分の教えた内容を理解できない者に対して「どうしてわからないの?」と逆に相手に問題があると真っ先に思ってしまう性分である。清子は再び声を荒げた。

「いつまで隠れているのかな? いい加減怒るわよー!」

「いや、もう怒っているじゃないですか!」

 幸灯は思わず隠れていた茂みから上半身を突き出して、ツッコミを入れてしまった。さすがの幸灯も自分の失敗に思わず声をあげてしまった。

「……あ。」

「え?……ホ、ホールドネット!」

 清子も驚いて、しばらくの沈黙の後に杖を出しては呪文を唱え、魔法の網で幸灯の腕と腰を一緒に縛り上げて、自分へ近づけさせた。

「あ、きゃっ、わー、うぐっ!」

 清子は容赦なく幸灯に質問をしだした。

「なんで逃げるの? あなたのためにやっているのよ? 何が不満なの?」

「うう、だって清子何言ってるかわからないし、すぐ私の体のどこか叩くし、何が間違っているか自分で考えなさいっていっつも言うし…」

 清子は目を怒らせて言った。

「それくらい普通よ。現にダンスの仕方とか政治の仕組みとか身についているじゃない。」

 幸灯はこれを聞くと、少し小声で本音を言った。

「確かにそうですが、限度があります。それにはっきりいって、括正の方が教えるのうまいですし、私がわからないことあったら必ず違う教え方を工夫していましたし、私が何かを間違えても優しく励ましたうえで、何をどう間違えて、その間違えを避けるためにどうすればいいかちゃんと教えてくれましたし……ゲ。」

 幸灯は清子の方を見ると、自分が墓穴を掘ってしまったことに気づいた。清子の怒りが頂点に達していた。

「何ですってぇぇぇ⁉︎」

 清子はそう叫ぶと、魔力の軽い暴走で彼女の足の近くの周りが炎に包まれ軽く草が焼けてしまった。清子は続けて喋り出した。

「このブラックフィールドという名家で生まれて、才能と努力によって魔法と知恵を磨き抜いた超エリート魔女の私がただ刀を振るしかできない学が少なめでのほほんなフォーン風情に劣るですって⁉︎」

 幸灯はビクビク震えながら、言い返した。

「か、括正は強くて優しくてカッコいい、最高の侍です! か、括正は馬鹿にしないでください!」

 勇気を出した幸灯に、清子は容赦なく睨みつけて脅した。

「お黙り! 燃やすわよ!」

「ヒィィィ、ごめんなさい!」

 必死に謝りながら幸灯はふとある変化に気づいた。清子の瞳の色が金と緑を交差する。清子は大声で叫んだ。

「お父様の血を受け継いでいる私が戦闘力が無に等しいヤギ男に劣るはずが、なーい!」

清子は叫ぶと共に彼女の魔力の暴走でその森の一帯に緑色の炎が出現したり消えたりした。幸灯は余りもの超自然的な現象に開き直って、逆ギレしてしまった。

「もういやだああ! 清子さんもう嫌いです!」

「え?」

 それを耳に入れた清子の暴走が収まり、涙がポロポロ溢れ出して。しかし幸灯の方が大泣きしたのだった。

「うわああああああんん!!」

 幸灯は大泣きしながら、その場を走り去ってしまった。清子は涙を流し続けた状態でひざを地面に下ろしながら密かに思った。

(またやってしまった……いつもそう。なんで私は人を突き放しちゃうの?)

 幸灯も走りながら、複雑な気持ちを持ちながら走っていた。

(あんなこと言いたくなかった! 清子ちゃんは優しくて素敵な子ってわかっているのに! 私のことを思って言ったことがほとんどってわかっているのに! もう私、清子さんと友達になれない!)

 そんな走っている幸灯をそこまで遠くない海辺の洞窟から、魔法の水晶を通して発見して笑う者がいた。

「うふふふ、見つけたわ突破口。神々を引きずり下ろす鍵! 利用させてもらうわよ、お嬢ちゃん。」

 海の魔女は海が見えて陸の日の当たる土への道もある海辺の洞窟を拠点にしていた。


・・・

・・・


 次の日の朝の団子屋に舞台は変わる。幸灯は軽く朝食を食べていたが、例の団子屋の娘が話しかけてきた。

「お嬢ちゃんもしかしてちょっと前まで魔女と一緒にいたでしょ?」

「え?」

 幸灯は驚いて、団子屋の娘に質問した。

「お姉さんどうしてわかったんですか?」

 そうすると団子屋の娘は自慢げに答えた。

「ふふふーん、すごいでしょ? お姉さんはね〜この前魔女に助けられたからわかるんだよ。魔女の匂いがね〜。魔女と同じ性別だからかしら? はあ〜ルシア様〜。」

 娘の心は踊っていたが、幸灯は笑顔で名前を確かめた。

「まあ、ルシアっていうお方?」

「そうよ。海の魔女って言われていて、私を横暴な聖騎士から救ってくださったの。すごくかっこよかったわー。そのあとお礼を言わずに悪口を言い散らして、まさかの今日まで放置プレイ。しびれるわ。」

 団子屋の娘は話し続けた。

「いつかルシア様の下僕になって、その後弟子になって、お友達になって、最終的にはルシア様の妹分になりたいわ。だけどあなたの関係も面白そう。私の勘が正しければ、あなたはもうその魔女とは既に友達よね?」

 そう訊かれて、幸灯は思わずシーンとして、頭を下げた。

「お姉さんには申し訳ないですけど、実は私魔女が少し怖なっちゃって…」

「キャキャキャ、魔女が怖い。それは当然だ。実質魔女や魔法使いどもの活躍のおかげで俺の役人としての活躍度がよぉ〜」

 野心の男、火雷 狂矢が新しくできた部下を3人連れてこの城下町にやってきたのだ。狂矢は拳を握り叫んだ。

「実質最下位やないかい!」

「そんな事情知りません!」

 幸灯はツッコミをいれたら、狂矢は彼女を睨みつけたので、幸灯はそこから海の方へと走り出した。

「あの娘を追いかけるぞ! 俺が数日前に匂った魔女の匂いがあいつからするぜ。」

 森や野原、丘を越えて幸灯は海へと走った。しかし狂矢たちはしつこく追いかけた。幸灯は海辺にある洞窟の入り口を見つけて入ったがまさかの行き止まり。横には海への入り口があったが少女が耐えれる波の勢いではなかった。振り向くと狂矢たちがいた。

「キャキャ、嬢ちゃんよー。なかなかいいビートだったがここがお前のファイナルライブだぜ。」

 狂矢の言葉に絶望する幸灯を、もう一つの言葉の主が救った。

「ファイナルライブを送るのはお前たちよ。」

 海の入り口からある影が飛びヒザ蹴りを仕掛けて、一人の役人を足裏で頭から洞窟の地面めり込ませた。

「てんめえー!」

「この野郎!」

 狂矢以外の残りの二人の役人はルシアに刀で攻撃を仕掛けた。ルシアは彼女に近かった方の侍の攻撃をかわしてから後ろから片手で彼の首を掴み、もう一人の侍の攻撃を彼に喰らわせた。攻撃の勢いを止められなかったもう一人の侍は結果的に仲間を殺してしまった。

「グハッ……あ……。」

「し、しまっ…」

「ほほほ、私を殺すつもりで仲間殺しちゃうなんて、あ、わ、れ。」

 ルシアの挑発に、仲間殺しの侍はあっさり乗っかってしまった。

「舐めるな! うぉぉぉ!」

「えい!」

 数日前に聖騎士が彼女に撃ち続けた銃弾の塊を持っていたルシアは彼の頭目掛けて投げつけた。男はうつ伏せに倒れてしまった。

「あら、人間は銃弾喰らうと一発で死んじゃうんだ〜。情けない脆さね〜。」

 狂矢はこの間黙って見ていたが、冷静に喋り出した。

「ここ最近起きていた海辺の行方不明の男性多数の犯人だな、貴様。」

ルシアは笑顔を浮かべて言った。

「わぁ〜お兄さん、大正解! 立派、立派!」

 次にルシアは笑顔のまま、殺意のある目つきへと変わった。

「じゃあ次はお前が海の魔女の餌食な。」

 狂矢はこれを聞くと、不敵な笑みを浮かべた。

「俺は出世の道を考える方が好きだけどよ〜」

 狂矢は肩を抜く用意をした。

「こういう強者との殺し合いも、嫌いじゃねぇ!」

 幸灯は役人の侍の刀と海の魔女の拳や蹴りが何度も何度も激しくぶつかるのを目にした。その衝撃で洞窟が激しく揺れていた。しばらく戦いが続いた後、ルシアは少しだけ動揺していた。

(こ、こいつの刀、私の拳で砕けない! 相当な実力者ね。 侍にも格上の強者がいるのね。)

 ルシアはそう思っていると狂矢が喋り出した。

「すぐ終わるって思ってただろ? 怪人との戦闘は俺も経験済みよう、よよよう! そろそろ俺のビートで灰になれ〜」

 狂矢は片手で突きの構えをした。

「よう!」

 電気を帯びた刀がルシアをめがけて突撃した。しかしルシアは神経を集中させて突きをかわすと狂矢の腕を掴んだ。

「ウゴッ! しまった!」

「うりゃああ!」

 ルシアは力づくで狂矢の腕を彼の体から引きちぎってしまった。それを目の当たりにした幸灯は悲鳴をあげた。

「いやあああ! きゃあああ!」

 直接的に物理的なダメージを受けた狂矢ももちろん悲鳴をあげた。

「んんがああああああ! 俺の運勢最下位やな…」

「うっさい!」

 叫ぶ狂矢をルシアは容赦なく海の彼方へ殴り飛ばしたのだ。

「さて…」

 ルシアは殺意のこもった顔から一転、優しそうな笑顔へと変わり幸灯の方へ向いた。幸灯はブルブル壁に背を乗せ震えていた。ルシアはパンと手を叩くと大きな骨肉とそれを焼くための炎が現れた。

「とても怖かったわね。お姉さんはあなたを護りたかったのよ。お姉さんはあなたの味方よ。」

 幸灯は一瞬逃げようと思ったが、恩人の誘いを断るのは失礼だと思い、それと同時にまだお腹が空いていたので、海の魔女と一緒に食事をした。

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