鉛筆の教育学2 シャーペン禁止は国の規定ではない

 鉛筆や筆記具の種類について、国の規定はありません。シャーペンの禁止は法で定められたものではないのです。鉛筆の濃さ等に国の指定があるのかという質問に、国立教育政策研究所教育図書館(2016年)はないという回答をしています。

 ただ、筆記具について全く言及がないわけではありません。学校での学習目標と内容を定めた「小学校学習指導要領」では、筆記具に関して以下の記載があります。


小学校学習指導要領 国語 

第1学年及び第2学年 2(3)

ウ 書写に関する次の事項を理解し使うこと。

(ア)姿勢や筆記具の持ち方を正しくして書くこと。

(イ)点画の書き方や文字の形に注意しながら,筆順に従って丁寧に書くこと。

(ウ)点画相互の接し方や交わり方,長短や方向などに注意して,文字を正しく書くこと。


第5学年及び第6学年 2(3)

エ 書写に関する次の事項を理解し使うこと。

(ア)用紙全体との関係に注意して,文字の大きさや配列などを決めるとともに,書く速さを意識して書くこと。

(イ)毛筆を使用して,穂先の動きと点画のつながりを意識して書くこと。

(ウ)目的に応じて使用する筆記具を選び,その特徴を生かして書くこと。


また、「学習指導要領解説 国語編」では、上の規定に関して以下のように解説されています。


(ア)姿勢や筆記具の持ち方を正しくして書くこと。

 読みやすく整った文字を効率よく書くためには,姿勢と筆記具の持ち方を正しくして書くことが必要である。

姿勢とは,文字を書くときの体の構えのことである。背筋を伸ばした状態で体を安定させ,書く位置と目の距離を適度に取り,筆記具を持ったときに筆先が見えるようにすることが重要である。筆記具は,第1学年及び第2学年では主に鉛筆やフェルトペンを使用する。持ち方を正しくするには,人差し指と親指と中指の位置,手首の状態や鉛筆の軸の角度などを適切にすることが必要である。


(ウ)目的に応じて使用する筆記具を選び,その特徴を生かして書くこと。

 手書きの慣習に関わる文字文化に関する事項として位置付けられる。

「目的に応じて」の目的は,生活や学習活動において文字を書く様々な場面における目的のことである。例えば,全校児童に伝えるために大きく読みやすく書くことや,お世話になった人にお礼の気持ちを伝えるために丁寧に整った文字で書くことなどである。

「筆記具を選び」の筆記具は,鉛筆,フェルトペン,毛筆,ボールペン,筆ペンなどから選択することが考えられる。これらの筆記具に適した用材の選択にも配慮する必要がある。「その特徴を生かして」の特徴は,筆記具全体の形状,書く部分の材質や形状,色などである。例えば,横断幕を書くときには,大きく書ける毛筆と墨で書きやすい布を選ぶことが考えられる。


 なお、フェルトペンとは「ペン先に繊維を用いてインクを出す筆記具」のことで、「マーカー」と同じです。「マジック」や「サインペン」もフェルトペンの一種(商標)です。

 注意すべきは、これは「国語」であり、特に「書写」に関する文言ということです。そのため、ペンを用いることに言及しています。学校全般に関する文言ではありません。ですが、国語の時間以外では文字の書き方を全く気にしなくていいことはないので、ある程度各教科の指導は連動してきます。(ただし、他教科での評価において文字が下手だからといって不当に評価を下げるのはまた違います)

 書いてあることは、大切なことだと思います。低学年での「読める文字を書くため」の訓練は大切ですし、そして高学年では「目的に応じて使用する筆記具を選ぶ」と自分で道具を選んでいくことに至ります。

 「解説」の例にはシャーペンは挙がっていませんが、日常生活で筆記具を選ぶ中で、当然シャーペンも選択肢に入ってくるでしょう。個人によって、文字の大きさ・濃さや扱いやすさ、消しやすさ、芯をよく折るかどうかなど、自らに適した筆記具は異なります。個人の感覚としては使いやすくても、薄すぎるなど客観的に見て伝わる文字になっていない、と指摘が必要なこともあるでしょう。

学習に適しているかどうかを判断し、自ら適した道具を選べるようにしていくことが重要です。選択する力をつける段階になれば、一律に禁止することで端から考えないようにするのではなく、自ら選んでいく、指導者はその選択に対して客観的な判断から適切な助言をしていく、という方向性が文言の趣旨にも合っているように思います。(まあ、実際にはここまで文言を細かく意識している学校や教員は少ないと思います。)


 以上のように、国の規定では「シャーペン禁止」という言及はありませんでした。主に各学校が判断しているわけですが、次回はどのような理由・経緯で決まりが作られるのか、述べていきます。


(第3章へつづく)


【参考文献】

・国立教育政策研究所教育図書館「レファレンス事例NIER2016034」国立国会図書館レファレンス協同データベース、2016年:https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000197756

・文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)』2017年

・文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編』2017年

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