第13話

「…………びっくりした」


 樹君と一緒に電車に乗り、彼が住んでいる家に向かいながら私は独り言の様に呟いた。



「私は何もしていないのに、…何だかこっちが、素敵な贈り物をもらった気分」



 彼は吊り革につかまりながら、もう片方の手で私の頭をくしゃっと撫でた。



「苺のそういう所が、人の気持ちを優しくするんだ。…元気もくれる」



 電車を降りて、人気の無い住宅地の中を二人で歩く。



「暗いから、帰りは必ず送って行くよ。時間、大丈夫?」



「うん。家には連絡したから平気」




 彼は私の手をしっかり握り、指と指をからめた。




「俺も、苺にたくさん元気をもらったんだよ」





「…………いつ?」






 彼は私に、輝く笑顔を見せてくれた。






「3年間ずっと」





 …………!!





 氷が一瞬で融けたみたいな笑顔。




 その温かさに、



 心の奥にある私の恋心の



 形まで、変えられてしまいそう。











 彼の家に着いた。



 家というよりは、カラフルで小さな可愛い『お菓子の家』みたいな外観。



「入って」



 彼は鍵を開け、お店だった外観の家の中に入った。


 その家の中には沢山の、色とりどりの包装紙とリボンでラッピングされた、様々な洋菓子が並んでいた。


「今、家族全員で新商品を試作開発中。まだまだ未完成なんだ」



「すごい!!」



 キャンディー、クッキー、チョコレート、…見ていて思わず楽しくなってくるくらい、数え切れないくらいのお菓子のギフト達が並んでいる。



「もうここは店じゃないけど。中はかなり、あの時のままでしょう。奥にある部屋にみんなで今も、住んでるんだ」



 ここは以前私がお邪魔した事のある、『チョコチョコキャッスル』という名前のスイーツショップ。



 ……だった。



「うん。……少し覚えてる。懐かしい」



 彼のお父さんの、笑顔も。





「キッチン見てみる?」





「うん!見たい!!」





 彼は私の手を引き、キッチンの奥に案内してくれた。





 広々として清潔で、ピカピカにされているその場所には、私が見た事の無い様な調理器具や調味料が並んでおり、すぐにでもお菓子を作ることが出来そうだった。




「素敵…………!」


 私は感動して、キョロキョロ辺りを見回していた。




 すると。




 彼は私を後ろから、急に抱きしめた。





「…………!」






「ごめん、苺」





「…………?」





「すごく嬉しかったんだ…………本当は。苺が勇気を出して、俺に告白してくれた事」




「…………!」




「なのに、あんな風に怒ったりして。友達にけしかけられたからって、クラスでみんなの前でだって、そんなのは…どうだっていいのに」






「…………うん」






「文化祭に毎年出してた、苺が作ったクッキングクラブのお菓子、大好きだった」





「…………本当?」





「文化祭のクラスの喫茶店で苺が出した、クッキーの味も好き」





「…………え?」





「スイーツコンテストに出した苺シフォンケーキも…食べてみたかった」





「…………そんな事まで知ってるの?」





 彼は笑いながら頷いた。





「苺が作るお菓子は、いつも形がイマイチだったけど味は……」






 彼は私を、自分の方に振り向かせた。







 そして、







 味わう様に何度も、







 私の唇にキスをした。







「…………もっと食べたくなる」








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