パステル・チョコレート

第11話

「ここに、苺を連れて来たかったんだ」


 だだっ広いミュージアムの中の、2階の角にある小さな1店舗の前に着いた。


『パステルチョコ・キャッスル』


 外観はカラフルなお菓子で出来た、お城に見立ててある。


 窓の外から中を覗いて見てみると。


 可愛いラッピングが施された、楽しい気持ちになる趣向を凝らした、大小様々なチョコレートばかりが売られている。



 ここは、

 チョコレート専門店…?!



「俺達の母親が経営している店なんだ」



 私はまた、

 何かを思い出しそうになった。



 ここに来たことが無いはずなのに、

 何となくこのお店、見覚えがある様な…?



「入って、苺」



 樹君と二人で、おもちゃの様にカラフルな回転扉から、店内へと入る。



「いらっしゃいませ!」



 小さな店の奥にあるレジの中から、明るい女性の声がかかる。


 20代前半くらいの美しい女性。彼女も樹君によく似た顔立ちをしているし、目の色もそっくり!


みどり姉さん」


「あらあ、樹…と?」


「こんにちは」


 私は緊張しながらぎこちなく、樹君のお姉さんに挨拶をした。


 彼女はぱっと、顔を輝かせた。


「樹!もしかして、彼女が出来たの?」


 翠姉さんと呼ばれたショートカットの女性は、私にキビキビと歩み寄って来た。


「うん、彼女。同じクラスの木下苺さん」


「わお!嬉しい!はじめまして!苺ちゃん」


 翠さんは私の顔を見つめて、首をかしげた。



「…あら?あなたもしかして…『ドジおとめ苺』ちゃん?」



 …………!!



 また、『ドジおとめ』!!



「覚えてない?私の事。2年くらい前にあなた、一生懸命私に、道案内しようとしてくれたじゃない!」


 …………?


「『チョコチョコキャッスル』っていう、ここの前身のお店よ!地図を見ながらあなたが1時間かけて案内してくれたのよ。海外から帰って来たばかりの私に」



 …………!



 …………思い出した!!



「私、一緒に散々迷っちゃって…。せっかく場所を聞いてくれたのに、余計に足を引っ張っちゃいましたよね。その上…」


 確かそのお店で、甘く無くて美味しいホットチョコレートと、とびきり美味しいガトーショコラを、私はご馳走になってしまったのだ。



「あなたのお陰で、あの店は息を吹き返したのよ」




「…………?」




 翠さんは、とても謎めいた事を言った。








 

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