第9話 携帯

俺にとって沙穂はいつの間にか心の支えになっていた様だった。

だけど俺は.....沙穂をまるで自殺した幼馴染の代替わりの様に見ていたのだ。

それは簡単に言えば沙穂を沙穂として見ていなかった。


幼馴染の様にして沙穂の存在を無視していたのだ。

俺は.....ただ沙穂に涙を流して謝罪の言葉を述べたりしたのだが。

しかし沙穂は俺に首を振って笑みを浮かべた。


それから俺に対して、小五郎さんはそんな事はしない人です。貴方は酷い事をしない人です、と言い。

俺を優しく.....母性を持って抱き締めてくれた。

マジな馬鹿野郎だよな俺は。


だってそうだろ。

大人なんだぞ俺は.....なのに泣くなんて思わなかった。

ただ.....沙穂を励ますつもりだったのに、だ。

それから.....話がどんどんと膨れ上がってしまった。

なので俺は泣いたのだ。


幼馴染の自殺。

それで心に穴が空いていたんだろうと思う。

寂しかったんだろう、悲しかったんだろうと思う。

沙穂を代替わりで見ていたのはそれが主な理由だと思う。

一定時間が経ってから.....俺は沙穂を見ていた。


「沙穂。本当に御免な。お前を説得するつもりが.....逆に励まされたな」


「謝る必要無いです。泣きたい時は泣くべきです。私が.....そうでしたからね」


沙穂はニコッと笑みながら.....昼飯を置いていく。

俺はその姿を見ながら.....考えていた事を伝えようと思った。

そして俺は.....昼食を置き終えてから座った.....沙穂に切り出す。


「.....沙穂。.....お前、携帯はどうした」


「.....携帯ですか?捨てました。川に」


「.....俺としての考えを伝えて良いか。俺は.....お前に携帯を持たせようと思うんだ」


「.....え?!」


俺は.....驚愕する沙穂を見ながら.....その意図を並べながら顎に手を添えた。

私に携帯.....って.....、と驚いている沙穂に伝えた。

それから笑みを浮かべる。


「.....沙穂。俺はな。お前が心配だ。だから.....携帯を持たせる。その意味は.....お前が余計な行動をするから心配なんじゃ無い。お前にもしもの事が有ったら困るからだ。分かるか。だから俺はお前に携帯を渡すんだ」


「.....でも携帯代と機種代は.....高いです。.....そんな事まで.....してもらうのは」


「.....金なんかどうでも良い。俺としては.....金じゃ無い。お前の事が最も大切だと思っている」


その言葉に.....沙穂は唇を少し噛む。

そして.....涙を浮かべつつ.....笑みをゆっくりと浮かべた。

それから.....真っ直ぐに俺を見てくる。


「.....もし.....携帯を本当に私にくれるなら.....ガラケーで良いです。これ以上の迷惑は掛けられないですから」


「.....ガラケーだな。分かった。.....ただそれで本当に良いか」


「.....私、昔使っていたのはガラケーでした。だからそれで良いです。と言うかそれが良いです」


「.....そうか、なら良いけど」


沙穂はゆっくりと頷く。

そして、ささ。食べましょう、と嬉しそうに箸を俺に渡してくる。

俺は.....それを受け取って、そうだな、と返事をした。


それから.....飯を食べる。

焼き魚に味噌汁にご飯だ。

俺は.....沙穂を見る。

沙穂は?を浮かべていた。


「.....お前さ.....これは無理してないよな?」


「?」


「.....焼き魚とかレベルアップしすぎだろ。大丈夫なのか?」


「.....全然大丈夫です。私.....小五郎さんの為に考えてますし、自分に配慮しています」


でも.....そう言うのは少し恥ずかしいですね、と頬を掻く沙穂。

俺はその姿を見ながら、じゃあ食べるよ。

と感謝して食べた。

ドキドキした感じで見てくる、沙穂。

ってか、何だこれは.....塩加減が絶妙だろ。


「.....焼き加減が丁度良すぎるだろ。すげぇな.....」


「.....良かったです.....!」


「.....全くな。お前.....料理上手すぎだよ。本当に」


「褒めてくれて有難う御座います。嬉しいです」


沙穂はニコッとした。

んで、次の言葉に俺は驚愕した。

愛している人の為になら何でもやりますよ、と言ったのだ。

そして.....数秒して、ハッとした。

今なんて言いましたか私!!!!?と真っ赤になって慌てる沙穂。


コイツって.....言った事に後から訂正出来ない欠点が有るな。

思いながら沙穂に苦笑いを浮かべる。

沙穂はポカポカと><という顔をしながら俺を叩いてきた。

そして俯く。

その姿に言葉を発した。


「.....沙穂。.....有難うな」


「.....もう.....恥ずかしいんですけど.....」


「ハハハ」


来週辺りに.....携帯.....ガラケーの契約に行こう。

そして.....それまでは俺の携帯を使ってもらおう。

思いながら.....ご飯を食べている沙穂を見た。

それから俺も飯を食う。

取り敢えず.....沙穂が生活し易い様に.....整えなくては。


「沙穂。取り敢えず携帯を契約するまで俺の携帯を使ってくれ。昔の」


「.....は、はい」


「何か有ったら電話しろ。良いか。明日からまた俺は仕事だから」


「.....はい」


沙穂は頷く。

俺は、よし、と言いながら沙穂の頭を撫でた。

すると沙穂は.....ボッと赤面する。

俺は、あ。すまん、と頭から手を退けた。


「.....小五郎さん」


「.....何だ」


「.....好きになって良かったです。小五郎さんを」


「.....恥ずかしいんだが」


私は.....小五郎さんが運命の人だと思っています。

だから.....いつか私がお嫁さんになれそうだったら.....お返事下さい。

と満面の笑みを浮かべた沙穂。

俺は、約束する、と頷いた。


「今は返事が出来ない。俺は.....すまないな」


「.....当たり前です。それは。私は今、返事を下さいとは言ってないです。.....ただ.....貴方を支えたい女性が此処に居る。それだけは覚えていて下さいね」


沙穂はそれから、好きって感情がバレてしまいましたしもう積極的に行きます、と歯に噛む。

それから覚悟して下さいね、と言った。

俺は.....溜息を吐きながら.....沙穂を見る。

そして.....苦笑する。

全くコイツは.....と思ってしまった。

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