第16話 幼馴染コンビは相も変わらず

「で、だな。お前らはあの日何してたんだ?」


「それはこっちのセリフだ」


 休日が明けての月曜日。


 いつも通り登校して、いつも通り幼馴染ペアと遭遇した。

 並んで歩いている中、そんな言葉が交わされる。


「お前ら二人やっぱり付き合ってたのか?」


「冗談じゃないぜ。俺はもっと大人の魅力に溢れた女性を探し求めているんだッ!! お前と一緒にいた、あの美人のような!!」


「……私に大人の魅力がないって言うの?」


「ユーイズソー……セクシー?」


 ……玲央が後方に吹き飛ばされた。

 しかし、これが残念ではあるがあるべき姿であるため、俺は黙認する。

 おはよう玲央。


「それにしても先輩にあんな美人な彼女さんいたんですね。びっくりしましたよ」


「いや別に彼女ってわけじゃないんだけどね」


「……じゃあなんでキスしようとしてたんですか?」


「ギクッ……」


 それを言われると、正直辛い。


 あの後、玲央たちと遭遇してからキスは未遂に終わり、そのあとは何となく玲央と渚がその場を立ち去り、俺達もタイミングをずらして帰宅したのだ。

 

 だからお互いが抱く疑問は解消されておらず、今こうして話していた。


「いやあれはね、朱里さんがああいう性格なんだよ」


「ああいうとは?」


「……自由奔放な人なんだ。それに付け加えるなら、すんごい寂しがり屋」


「そうなんですね。やはり黒髪ロングの美人なお姉さんだからと言って清楚で真面目ってわけじゃないんですね」


 俺もその結論に至っている。

 やはり人は見た目じゃない。


「今度は俺から質問させてもらうけど、なんで二人は一緒にいたんだ?」


「それについては、俺から回答させていただこう」


 自分で「キラーン」という効果音を言いながら登場してきた玲央が、歯を見せてダメ押しで「キラーン」と効果音をつけてきた。なんとコスパがいいことか。


「なんか渚が急に、『私海が見たいの。だから玲央先輩連れてって! どうせ暇でしょ?』ってわざわざ俺の部屋に入ってきていうもんだからさ」


「あぁーやめてーそれは言わないでー」


 さすが幼馴染。というか、やはりこの二人はできているのでは?

 その証拠に今も強めのチョップをわき腹に繰り出してボディータッチを……いや、仲がいいのかわからないなこれは。


「俺は暇じゃなかったんだぜ? 流行りのイケメン俳優たちに『ニセモノは醜いだけだゾ』っていうレターを送ってたのによ」


「渚、よくやった」


「ありがとうございます」


 渚と俺はビシッと敬礼。

 今俺と渚の心は確実に繋がっている。


「だから俺は仕方なく、この強さに極振りしたせいで可愛さが残念になっている幼馴染を救ってあげてたんだよ~ボランティアとは、こういうことかッ!」


「ふんっ‼」


 玲央はいるべき場所、地面へと帰っていった。


 どうやら再起不能らしい。


「さっ先輩。いつも通りの朝になりましたし、登校しちゃいますか」


「あぁ」


 今度こそ玲央を置いて学校へ向かった。

 玲央は好奇の目にさらされながらも、地面とハグしている模様。どうやら地面にモテているらしい。


「あのさ渚。今日の放課後って空いてるか?」


「まぁ部活の前なら空いてますけど……」


「そうか。じゃあちょっと来てくれるか?」


「はい。いいですよ」


 ただの俺の興味本位だったり、心持の問題だったりするのだが、一つだけ確認しておきたいことがあるのだ。


 とりあえず、放課後にそれは明らかになるだろう。


 太陽の光が、じりじりと俺を焦がしてきた。




   ***




「お待たせしました」


 息を切らしてやってきた渚が、俺の座るベンチに腰を掛ける。

 俺はとりあえず、さっき自動販売機で買ったスポドリを渡した。

 

 そして俺は、いつも通りエナジードリンクを買い、プルタブを起こす。


「で、どうしたんですか?」


 渚も同様にスポドリを開けて、ぐびっと一口飲む。


「正直なことを話してくれ。お前、玲央のこと好きだろ?」


「ふぁっ⁈」


「いや玲央は気づいてないかもしれないが、渚わかりやすいんだよ。そもそも、二次元でもない限り異性の幼馴染で、さらに高校生になっても仲がいいと好きになるだろ?」


 異性を意識し始めるころ、一番同年代で近くにいるやつのことを好きになるはずだ。

 ちなみに経験談ではない。


 渚は少しの間驚いた表情をしていたが、観念したのか深いため息をついた。


「私そんなにわかりやすいですかね」


「うーん……普段はそんなことないんだけど、色々全体的にみるとね」


「そうですか……でも、このことだけは玲央先輩に言わないでくださいね!」


「大丈夫大丈夫。あいつ自分のことを好きな女子いたら理性崩壊しかねないからな」


「でも……玲央先輩は年上が好きなんですよね……私、大人の魅力とかないですし」


 落ち込んだように、視線を落とす。


「渚には渚のいいところがある。それに、あいつがあれを本気で言ってるかなんてわからないだろ?」


 玲央の言っていることは大抵ばかげていることで、大抵嘘だ。


 正直なところ、実はあいつも――


「そうですけど……」


「だから自信を持ってくれ……って、俺が言っても信ぴょう性ないよな」


「そんなことないですよ! 私、先輩のこと信用してるので!」


「そうか。ありがとう。まぁ実は、ただ渚に気持ち聞きたかっただけなんだ。俺が何かしてやれることはあんまりないからな」


 俺みたいな恋愛を何も知らないやつが「恋を手伝わせてくれ」といっても迷惑なだけだろう。

 だからあくまでも、自分にできる範囲のことしか言わないようにしている。


 相手に変に期待を持たせてしまったら悪いし。


「そうですか。まぁ、私なりに頑張ってみます!」


「おう。応援してる。時間取らせて悪かったな。部活、頑張ってくれ――」


 そう言って立とうと思った瞬間、渚に引き留められる。


「私にも質問、させてください!」


 どんな質問をされるか、薄々分かった。




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