死と隣りあったときに見える生

一話一話がじっくりと掘り下げられ、語り手の心の奥深くに一緒に連れていかれるような心地になりました。
人間の持つさまざまな負の感情は、たったひとつだけでもそれが膨れ上がった時、死を身近に引き寄せるものなのだと思います。それぞれのエピソードの中で、膨張し、煮詰まり、腐乱していくような感情。まるで感情というものに匂いがあるかのように、あたかもその匂いに死が引き寄せられるように。
しかしすぐ隣にいたとしても、少年少女は死と交差することはありません。なぜならぎりぎりまで死に近づいた時に見えるのが生だから。死体になれなかったのは、生を見てしまったから。それを救いと呼ぶのは安易ですが、彼らはまだ死体になってはいけない少年少女なのかもしれません。
一見無関係な登場人物たちが、わきをかすめるようにほんの少しだけすれ違う。本当の死とはおそろしくあっけないもの。九つのエピソードが積み重なり、重量感のあるひとつの物語を形どっているようでした。じっくりと読み込んで頂きたいです。

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