Gの愉悦

京衛武百十

キュイジーヌ

その日、少女は、何とも言えない違和感の中で目を覚ました。


『……え…?』


意識がはっきりしてくると、両手を後ろに回した不自然な態勢で床に寝ていたことに気付く。


『なにこれ…?』


その所為か、腕が痺れて感覚がない。


『痛…いたたたた……! なんなのよ、もう……!』


とにかく姿勢を治そうと腕を動かそうとして、少女はようやく、自分が異様な状態になっていることに気が付いた。


「え…なに? 腕が動かない……え? え…?」


右腕を動かそうとすれば左腕が引っ張られ、左腕を動かそうとすれば右腕が引っ張られる。


どうやら両方の腕が後ろ手に繋がれているらしい。


これはもうはっきりと普通ではない。


気付けば腕だけでなく足もおかしい。腕は前に持ってくることもできないのでどうなっているのかさっぱりだが、足は何とか見られそうだ。


と思って横になったまま自分の足を見た。


しかし―――――


「―――――な……? え…?」


と言ったきり、少女はしばらく固まっていた。


途方もない違和感に理解が追い付かず、頭が働かない。


『足の形がおかしい』


とは思うのだが、何がどうおかしいのか、頭が理解することを拒んでいるのだ。


しかしそれでも、たっぷり数十秒を掛けて、ようやく頭に染み込んでくる。


それと共に、


「…あ…え…? なに…? なんで……? え…? えぇ……?」


などと、ほとんど意味を成さない言葉がただ漏れ出てくる。


少女の視線の先にあったのは、明らかに形がおかしい、と言うか、『長さが足りない』自分の両脚であった。


恐る恐る動かしてみると、それが確かに自分の足だということが確認できてしまった。認めたくはなかったのに……


瞬間、


「う…あ……わ…ぁ、うわぁあぁぁああぁあぁぁぁーっ!!」


絞り出すような絶叫が、少女の喉を裂いて迸った。


「あ、足…! 足が…わあ…わぁああぁぁ…! 私の足ぃぃぃいいぃぃっ!?」


少女の視線の先にあったもの。それは、太腿の途中、『膝の手前くらいまでしかない』彼女の足であった。


「なんで…? なんでぇぇえぇぇぇっっ!?」


寝てしまったのか気を失ったのかは分からないが、確かにそれ以前は間違いなく普通だった自分の足が気付いたら無くなっていたのである。これで正気を失わない人間はまずいないだろう。


すると、そんな少女の耳に届いてきた声。


「うるさいなあ…ゆっくり食事ができないじゃないか」


魂まで裂かれるかのような悲鳴を上げる少女とはあまりにも対照的なのんびりとした口調。


床に転がされるように寝かされていた少女の背後に、テーブルと椅子が並べられ、そこに男が一人、席に着いて、食事を摂っていたようであった。


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