「汚い私からの変化」

光がまぶしい。

カーテンの隙間から覗く朝陽がきつい。

眠い目をこすって携帯を確認する。

時刻はAM9:00


加藤の姿はない。

テーブルにメモがあった。

「仕事だから家を出る。カギはポストに入れて。目が覚めたら出てって」

淡々とした言葉。

急いで書いたのだろう。

よめないところが多々ある。


私は言われたとおりにカギをポストに入れて荷物を持って家を出た。

歩いて駅に向かっている最中ふと昨夜のことが頭に浮かぶ。

そうか。私は汚れたんだ。

好きでもない人と行為に至ってお金をもらったんだ。

私ってすっごく汚いんだな。

涙がほほを伝うのが分かった。

泣き声なんかでなかった。

ただただ汚い自分がどうしようもなく嫌で、でもどうすることもできなかった。


そこから私はおかしくなった。

たくさんの人とそういう行為に及んだ。

だって汚いんだもん。どうしようもないじゃん。

1日の売上げは日によってまちまちだった。

多い日は十万を超えた。もちろん収入がない日もあった。

自分が嫌で嫌で仕方ない。

でも生きていくためには仕方がない。

警察からは何度も逃げた。

最初は駅で過ごしていたが段々変化していった。

公園、路地裏、ちっちゃい小学校の校舎裏、ファミレスの駐車場、橋の下、高架線の下。いろんなところで寝た。どこでも眠ることができた。

自分と年が違わないような若い人に馬鹿にされたこともある。

自分よりも年上の人に理由を聞かれて話しているうちに泣いてくれる人もいた。

子供連れのお母さんに唾を吐かれたこともあった。

高校生くらいのヤンキー少年たちに犯されたこともあった。

自分の祖父母と歳の同じくらいの方に説教を受けてこともあった。

いろんなことを経験した。

泣くことが減った。心が強くなった気がした。

でも、それと同時に笑顔も減った。


そんな何も楽しくない毎日をぼんやりと過ごしていた時、声をかけてくれたお兄さんに告白された。

彼はちょっとふくよかな28歳で私と12歳も離れた人だった。

私は当たり前のことだがお断りした。

「私は気持ち悪いから付き合わないほうがいいよ。やめておきな」

そんな私の声を一切無視してお兄さんは毎日私に会いに来てくれた。

それがどうしようもなく嬉しかったのを覚えている。

お兄さんは車で2時間ほどかけて毎日私に会いに来てくれていた。

一緒にくだらない話をしてくれた。

一緒にご飯を食べてくれた。

一緒にドライブしてくれた。

私みたいな女に声をかけてくれたのはうれしいがなんでだろう?

単純な疑問だった。

「おにいさんはなんで私を好きになったの?」

私の質問に一瞬「うーん」とうなってから照れたように

「君のことを笑わせたいって思ったからなかな。そこから毎日話したりご飯を食べたりしているうちに君しかいないって思い始めた」

こっちまで照れてしまった。

久しぶりに涙がでた。

私のことを受け止めてくれた。

その真実だけで私は一瞬で彼に恋をした。

好きになった。

出会いはどうであれ私の気持ちにも彼の気持ちにも嘘はなかった。

私にもやっと幸せになるチャンスが来たんだ。

それだけでうれしくて仕方なかった。



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