第27話

 八月十四日

「………ん?」

目を覚ますと、そこは明らかに俺が今までいた部屋とは違う場所だった。

あたりは自然に囲まれていて、どこか公園のような場所だ。だが、この場所がどこかはわからない。

「あ、海斗くん。起きた?」

顔を上げると、そこには彼女がいた。光がさしているせいか、それとも俺の気持ちのせいか、彼女が天使に見える。

そうではなく、一体ここはどこだ?少し見覚えもある気もするが…

俺はゆっくりと体を起こした。

「おはよ、朱音。成功したのかな?」

「どうだろう、でも、ここは客室ではないよね?」

「もしかしたら、戻ってこられたのかも」

俺はポケットからスマホを取り出し、電源をつけた。画面にリンゴのマークが表示される。

「ついた!ってことは…」

「海斗くん、それ何?」

「ああ、これはこの時代の携帯電話だよ。スマートフォンって言うんだ」

「へぇ、時代は進化するんだね」

そういえば彼女は二十年前の人だ。スマートフォンを見たこともないのも当然だ。

しばらくすると、スマホが起動し、画面がパスコードの画面になる。俺がパスコードを打ち込むと、時間は二〇二〇年の八月十四日になっていた。

「やった!戻ってこれたんだ!」

「えっ?本当?」

「うん、場所を調べるね」

俺はスマホの地図アプリを起動する。なんて便利な時代なんだろう。これがあれば、もっと捜査もうまくいったかもしれない…

スマホの位置情報は松葉高校の近くを示していた。通りでなんとなく見覚えがあるわけだ。

「ここさ、朱音の通ってる高校なんだよ?」

「えっ?本当?」

彼女は学校を見る。時は経っているが、場所などは変わっていない。そこにあるのは、確かに彼女が通っていた高校なのだ。

「確かに、結構雰囲気変わっているけど、ここは私の高校だね」

彼女は少し嬉しそうだった。きっと、過去と同じものがあることが嬉しいんだろう。生きる時代が変わっても、それはかつて、自分が生きていた時代のものだから…

「それじゃ、とりあえず俺の家に行こっか」

「いいの?」

「それしかないでしょ?それに、こんなことを説明して理解してくれる可能性があるのは、俺の親父だけだろう死さ」

「それもそうだね」

そうして俺は、二週間ぶりに家に帰った。


いくら事情を話したとは言え、二週間も家に帰らなかったのだ。両親はとても怒っているはずだ。そんなことを思いつつ、俺は家のドアを開けた。

「ただいま」

「お邪魔します」

俺たちが玄関に入ると、そこには母が座って待っていた。

「おかえり、海斗。ようこそ、朱音ちゃん」

「えっ?」

怒られなかった?というか、それ以上に、なぜ母が彼女のことを知っているんだ?

「母さん?どうして?」

「そうね、それはお父さんに聞いたほうがいいと思うわよ。上で待ってるはずだから行きなさい。朱音ちゃんはここに残って。色々と話したいことがあるから」

「は、はい。わかりました…」

父さんが何か知っているのか?俺が過去に行っている間に一体何があったんだ?

「じゃあ、朱音。ちょっと行ってくる」

「う、うん。わかった」

俺も彼女もこの状況を全く理解していない。俺が過去を変えたことで、未来に影響があったのだろうか?

俺は親父の部屋をノックした。

「父さん?海斗だけど…」

「ああ、入ってくれ」

ドアを開けると、親父が俺の身体を強く、抱き締めてきた。

「ちょっ…お、親父?」

「おかえり、海斗。ありがとな」

「えっ?何のことだよ?」

「二十年前のことだ。俺にとってはな。ここは、お前が姫川朱音を救った世界だ。二週間前にお前がいた世界とは別の世界なんだよ」

「ああ、そういうことなのか」

俺が二週間前にいた世界と、今俺がいる世界は違う世界だ。つまり、姫川朱音が亡くなっている世界を知っているのは俺を含め、あの時、過去で俺と関わった人間だけというわけだ。

「それじゃ、朱音のことも…」

「ああ、母さんにも説明してある。海斗は彼女と一緒にこの世界に戻ってくるってな」

「彼女って…、まぁ、そうなんだけどさ…」

「どうやら、そっちもうまくいったみたいだな」

「そっか、じゃあ俺からは何も説明はいらないんだな…」

「そうかもな」

「じゃあ、あれから警察の仕事はどうなったんだ?」

「ああ、あの後事件のことが評価されてな。今じゃ俺は警視、植田は警部にまでなったんだ」

「マジかよ…やったじゃんか!」

「お前のおかげだよ、海斗」

どうやら俺は親父と植田さんの運命を変えるサポートはできたらしい。

「本当、よかった…」

そして俺は、やっと時間を超えた旅が終わったことを感じた。

「ただいま、父さん」

「おかえり、海斗」

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