第18話

奴らの視線が一気にこちらに向く。

「何?佐倉?どうしてここに?」

「貴様、生きていたのか?」

そして、俺は彼女と目を合わす。

「朱音!約束どうり、助けにきたぜ!笑顔でな!」

俺は思いっきり笑って見せた。

その顔を見て、彼女の顔も、笑顔になる。

「もう、遅いですよ、佐倉さん…」

流石にまだ佐倉さんなのか…と思いつつも、俺は喜びを隠すことはできなかった。

「ごめん、お待たせ」

だが、彼らも黙ってはいない。

「何助かった気でいるんだ、お前は!」

藤原が彼女を突き飛ばした。

「きゃあ!」

「姫川さん!」

とっさに彼女の名前を呼ぶ。

「藤原、貴様ぁ!」

「佐倉、お前が何故生きているのかは知らないが、今度こそ徹底的に殺してやるよ!」

「へっ!やれるもんならやってみろ!」

この前はただの強がりだったが、今は違う。

「この前の俺とは、二味も違うんだよ!」

その瞬間、俺の背後から、二人の警察官が姿を現した。

「ん?何だ、お前たちは?」

「佐倉海、ただの刑事だ」

「植田隆史、正義の味方だ!」

「ぶっ!」

また、吹き出してしまった。

「植田さん、何言ってるんですか!」

「え、カッコよくない?僕、一度言ってみたかったんだよねー」

「お前、同じ警察官として、俺は恥ずかしいぞ…」

「ちょっ、佐倉刑事まで!」

「それなら、俺も言いたかった!」

「あんたもかい!」

何を言っているんだこの親父は…

「どうする?やり直します?」

「やり直すか?」

どうやら、よほど登場にこだわりたかったらしい…

だが、今はそれどころではないのだ。

「やり直さんでええわ!早く助けますよ!」

「お、おう…」

「そうだね…」

「やる気を出せー!」

俺は二人の尻を思いっきり叩いた。

「「すいませーん!!!!」」

その様子を、呆れて見ていた藤原たちが、こっちへ来る。

「テメェら!ふざけてんじゃねえぞ!」

「は?ふざけるだと?」

親父は、藤原の手をつかみ、足をかけて、体を抑え込んだ。

「ぐおぉ!」

「犯罪者相手に、ふざけることなどない!」

植田さんは、細野の後ろに回り込み、そのまま体を抑えつけた。

「がはぁ!」

「つ、強い…」

俺が苦戦した奴らを一瞬で抑え込んでしまった。犯罪者に対しては容赦ない。さすがは警察官だ。

「海斗!こいつらは任せろ!早く彼女を助けるんだ!」

「はい!」

俺は彼女のもとに駆けつけた。

「大丈夫ですか?姫川さん?」

「朱音…」

「えっ?」

「私のこと、名前で呼んでくれたじゃないですか、あれ、とっても嬉しかったんです。だから、朱音って、呼んでください、海斗くん…」

俺は彼女を強く抱きしめ、絞り出すように、声を出した。

「はい……、朱音さん…!」


彼女の拘束を解き、(二度目)彼女を助け出すことに成功した。(二度目)

「ありがとうございます、また、助けてもらいましたね」

「いや、こっちこそ、遅れてごめんね」

「はい…!」

「やったな、海斗」

「うん、ありがとう、父さん」

「俺は当たり前のことをしただけだ、さぁ、帰ろう」

「ああ」

後ろには、手錠をつけられた二人を植田さんがたたせていた。

「佐倉刑事、こいつらどうしましょうか?」

「ああ、それならもう車を用意してある。植田、お前が運転して署まで連れて行ってくれ」

「了解です」

「このまま署に連行する。いろいろ聞きたいこともあるだろうしな、そうだろ?海斗くん」

「はい、そうですね」

俺は二人に近づき、一つの質問をする。

「山崎はどこだ?」

これだけは、今聞いておきたかった。

この倉庫には、山崎の姿は、結局見つからなかった。このまま奴だけを逃がす若にはいかない。

「さぁ、知らねえな」

「そうか、まぁ、それ以外のことも含めて向こうでたっぷりと聞かせてもらうからいいけど」

「くそっ!離しやがれ!」

「じゃあ、植田さん、よろしくお願いします」

「わかった。さぁ、こっちへ来い!」

そのまま二人は連行されていった。


「じゃあ、今度こそ帰ろう、朱音」

「はい」

「そういえば、朱音は山崎の場所を知ってる?」

「ごめんなさい、わからないです。あの後からは目隠しをされてこっちに連れてこられたので…、でも、こっちに来てからあの人は、私、見ていないと思います」

「そうか、ありがとう」

もしかしたら、山崎はこっちにきていない可能性がある。となれば、まだ東京にいるということだろうか…

「君が、姫川朱音さんだね。私は佐倉海、警視庁の刑事だ。今回は大変だったね。よく頑張った」

「佐倉?ってことは…」

「ああ、海斗とは遠い親戚なんだよ。それで今回、海斗の方から連絡があってね。遅れて、申し訳なかった」

「いえ、本当に、ありがとうございます」

「さぁ、車に乗ってくれ」

俺たちは車に乗って、東京へ向かった。

「いやー、本当によかった。この事件、解決しなかったら、俺はこの先、警察官としての自信をなくしていたかもしれない…」

実際、本来の歴史ではそうなってしまっている。

だが、俺はそれを変えた。親父の、佐倉海の運命を俺は帰ることに成功したのだ。

そして、もう一人…

植田隆史という人の運命も俺は変えた。あの人が目指していた、警察官に、少しだけ近づけたかもしれない…

いや、最終的に自分たちの運命を、未来を変えたのは彼らだ。俺はあくまでサポートをしただけ。


運命や未来は、自分の手で変えることに意味があるのだ。


「後は、山崎だけだな…」

俺は、二人に聞こえないぐらいの声で、そう呟いた。

この事件は、俺の時間遡行は、まだ終わったわけじゃない。

家に帰るまでが、時間遡行なのだ!

小学校の時から遠足やらで聞いているけど、このフレーズ、本当にどこでも使えるな…

山崎を捕まえて、彼女と一緒に未来へ帰ることで、ようやく俺の旅は終わりを告げるのだ…

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