拓海くんとのデートの日

 ちょっと早かったかなぁ。

 私は、滅多にしない腕時計をはめた腕で、時間を確認していた。

 スマホは、今はお休み。電源を切っている。


 今日は月に一度のデートの日。

 バラバラに家を出て、待ち合わせを決めて。

 まだ、拓海くんの実家に居た頃に、拓海くんが言い出したこと。


「僕が思ってたより二人っきりになれない。だって、美佳ちゃんちっとも部屋に居ないし」

「拓海くん」

 私は溜息を吐いていた。

 拓海くんのご両親との同居生活はもう二年目、私もすっかり家族の一員になっている。

「一応、私は嫁なのよ。ここに居る限り、娘でも妻でも無くてお嫁さん。分かる? 部屋に籠もっている訳にはいかないの」

 分かってくれるかな? この楽しいつらい立場を……って、言外に漂わせてるのだけど。


「今、楽しいって思ったよね。僕と居るより、楽しいって思ったよねっ」

 子どもか、あんたは。

 外じゃ、ちゃんと大人の男性してるくせに、私の前じゃ子どもみたいな言動をとるんだから。


「外行こう。休みの日、二人で外で待ち合わせてデートしよう」

「え? 面倒くさい。疲れてるのに……」

「美佳ちゃん。本当に僕のこと好き?」

「そりゃ、好きじゃなきゃ結婚してないけどさ」

 流石にねぇ。もう、恋愛期間みたいに、ドキドキしたりテンション高くなったりは無いけど。

 隣に居て当り前、拓海くんがいなくなるなんて、想像したことも無い。

「じゃ、月一。家もバラバラに出て、待ち合わせしよう」

 そう言って、その日だけは親たちに邪魔しないように言って、月一デートが始まった。


 それがマンションを買って、拓海くんの実家を出てからも続いている。

 拓海くんの実家……。

 私は楽しかったけど、拓海くんはやたら出たがってたな。


 早朝の街。休日だからか、まだ人もまばらで気持ちいい。

 いつもは拓海くんが家を先に出てる。

「美佳ちゃんを待たせるなんて、とんでもないよ」

 と言って。だから、今日は頑張って早起きして……拓海くんの実家経由でここに来た。

 だって、家でゴソゴソしてたら拓海くん起きちゃう。


 お義母さんと画策して、すっぴん適当な服でマンションを出て、向こうで完璧な私になって街に出て来た。

 待ち合わせ場所を書いたメモ紙、気付いたかな。拓海くん。


「美佳ちゃん。お待たせ」

 拓美くんは、カジュアルスーツ姿で立っていた。

 ちょっと怒ってるような気がするけど。

「起きたら、誰もいないからビックリしたよ。スマホも繋がらないし」

「うん、切ってたもの。怒ってる?」

「美佳ちゃんがそう思うんなら、怒ってるんだろ?」

 あらら、相当怒ってるよ。


「だって、拓海くんずるいんだもの」

 だから私もふててみせる。

「ずるいって?」

「私だって拓海くんを待つ楽しみが欲しいわ。いつも、待たせすぎて居なくなっていたらどうしよう、って思っていたのよ」

 そうやって、チラッと拓海くんを上目遣いで見た。

 拓海くん少し赤くなってる。

 

「怒んないでよ。せっかくのデートなのに……。それとも中止して帰る?」

 拓海くんは、すこし呆れたように半笑いで溜息を吐いていた。

「いいや。ごめん、せっかくのデートなのに、雰囲気悪くして……。でも、さすがに早すぎて店が開いてないね」

「あそこのパン屋さん。座って食べるところあるじゃない、あそこに行きましょ」

 私は、道を挟んだところにあるパン屋さんを見つけて誘った。

「ねぇ、どうせ朝ご飯も食べずに出て来たんでしょ?」

「そうだね。たまには良いか、朝から外食も……」


 恋人らしく腕を組んで、どうせその後のプランは拓海くんが考えてるから……。

 たまには、私の思惑に乗ってくれてもいいでしょう? ねぇ、旦那様。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る