いろいろ失敗したよ……トホホ……

 失敗した。

 何か立て続けに失敗した。

 いつもは優しい上司が、怒鳴るほどの失敗。

 取引先にまで迷惑をかけてしまった。


「そんなこともあるよぅ~。私だってねぇ、何度怒鳴られたことか」

 居酒屋で、優しい先輩が慰めてくれる。

 涙が出てないだけで、泣きたい気分だった。

「向いてないんですよ。私……」

「うんうん。私も自分が失敗したときは、そう思った。わかるよぉ~」

 先輩、酔っぱらってる。私も酔ってるけど……。


「そおっスね。今夜は、パァ~っと飲んで忘れることにするっス」

「それでこそ、美佳ちゃん。今後に期待してるよっ」

 お酒の力で、少し気分が浮上して……でも、明日から会社行きたくないなぁ。



「お疲れ。え……と、相沢拓海くん?」

「連絡ありがとうございます。すみません、妻がお世話になってしまって」

 え? 先輩と……拓海くんの声だ。

 酔っぱらって、寝かかっている私の意識に引っかかった。


「いえいえ、良いのよ。フォロー役だし。彼女、初めて任された仕事で失敗してねぇ。たいしたミスじゃないのに取引先が怒り出して、課長も怒鳴らざるをえなくなったのよ」

 ごめんね……って、先輩が謝ってる。

 それに対して拓海くんも受け答えしてた。完全に社会人ビジネスモードだ。

 拓海くん、家から遠いのに迎えにきてくれたんだ。

 居酒屋のテーブルに突っ伏して、かろうじて意識がある私は、突っ伏したままボーッと目の前の拓海くんを見ていた。



 気が付いたら拓海くんが運転する車に乗っていた。

「あっ、起きた? 美佳ちゃん。そこにさ、冷たいウーロンあるから、気分が悪くないなら飲んで」

「うん」

 冷たい……。私は飲まずに、ペットボトルをほっぺたに当てていた。

「拓海くん。職場で怒られたことある?」

「あるよ。あたりまえだろ?」

 拓海くんは軽い感じで言ってる。本当にあるのかなぁ。



「あの……さ。拓海くん、子ども欲しがってたじゃない」

「うん。欲しいよ」

「つくろっか……」

 一瞬、拓海くんが、おや? って顔をしたのが分かった。


「ん~。一週間経って、美佳ちゃんが同じ事言ってたらね」

 運転しながら、こっちも見ずに、拓海くんが言う。

「なんで? 欲しいんじゃ無いの?」

 拓海くんは、チラッとこっちを見て、道路脇に車を止めた。

「欲しいけど……。普通じゃ無いでしょ? 精神状態。後悔するよ」

 今度は、ちゃんとこっちを見てる。


「だからね。一週間、ちゃんと会社に行って、それでも出産を理由に退職したいと思うのなら、その時は、僕もそのつもりで抱くけど」

 拓海くんから、冷めた目でそんなセリフを言われて、頭をガツンと殴られた気がした。

「私、そんなつもりで」

「そんなつもりだろ? どう考えても。そんな気持ちで産んだら、子どもが可哀想だよ」

「ごめんなさい」

 そうだ……拓海くんにも失礼だ、私。


「別に、僕は希望通りだから良いけどね。子ども欲しいし。

 でも、たった一度の失敗で逃げてしまったら、自分が嫌になるんじゃない?」

 手を伸ばして、私の頭を撫でてくれる。同じ歳なのに拓海くんは大人だ。

「うん」


 私が頷いたのを確認して、拓海くんは車を出した。

 

 拓海くんが買ってくれたウーロンを飲みながら、

『明日からもまたがんばろう』

 そう思えるまでには、気持ちが浮上してた。

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