秘密の場所?

 手に持った弁当箱を片手に、俺と翔子は里香に手を引かれ保健室の奥へと向かう。

 カーテンで区切られたベッドは出入口から見て右手側。壁から大きく飛び出る形で配置されており。

 そんなカーテンの裏側。陰になって周りからは見えない死角に、ちょうど人が二人ほどゆったりと座れそうなサイズのソファーが一つ置いてあった。

 

「じゃじゃーん! ここで食べよ!」

「じゃじゃーんって……なんでこんな所にソファーが……」

 どうだ凄いだろと言いたげにドヤ顔を浮かべる里香に、俺は困惑気味に呟く。

 元より返答は返ってこないだろうと思って発した言葉ではあったが、意外にも里香は訳知り顔で。

「ここね、お見舞いに来た生徒とか、生徒を引き取りに来た親御さんが一時的に居られるようにしたスペースらしいよ~」

「へー。よく知ってるな」

「うん! この間足の様子を見てもらいに保健室来た時にこの場所見つけてね。その時に鹿野先生に確認したから」

 そこで一度言葉を区切ると、続けて里香が満面の笑みを浮かべながら。

「この場所を見て、ここならゆっくり三人で過ごせそうだなーって! それでお願いしたら意外にも許可がでたんだよね~」

 こちらを少し見上げる様にして振りまく笑顔は眩しく、可愛らしく。

「お、おう……」

 近距離で浴びてしまった眩しさに、自分の顔が熱くなるのが分かる。

 咄嗟に里香から顔を逸らし、火照った顔を見られないように、俺はそそくさと今なお誰一人座ることなく眺めていたソファーにさっさと腰を落とすと、二人の視界に入らない様、顔を傾げながら背もたれに体を預けた。


 ちらりと視界の隅に映った翔子がニマニマとした顔で俺を見ていた気がするが、気にしない。気にすると余計に恥ずかしくなるから。


「ふふっ。じゃー遠慮なくここで食べちゃお。亮君、隣座るね~」

「あー! 翔子ずるい! 私もとーなり!」

「な!? おいちょっと待て! このスペースで三人無理だから! 俺退くから!」

「だめだめ~。三人仲良く並んで食べないと~」

「それにほら。 私細いからこのスペースでもすっぽり収まるよ」

「いや、収まってないから! いろいろ当たってるから!」


 椅子取りゲームの様相と化したソファーの上。二人の視界から逃げる事しか考えなかった俺は端に寄るように座ってしまい。

 後から座った翔子がその隣に座り込む。ここまでは良かったのだが、里香が何故か翔子の隣ではなく、俺を中央に翔子と逆側に無理やりお尻をねじ込もうとし。

 当然最初に詰める様にして座っていた所に、人が一人座れるスペースもある筈無く。

 俺は里香が座れるようにと、翔子を少し押す様に互いの肩と太ももを触れ合わせながら場所を作り。

 そうして出来た隙間。座席に掌を添えて体をずらしていた俺の手はそのまま取り残されているのにも関わらず、それに気が付かず無理やり座り込もうとした里香のお尻に下敷きに遭う。

 不味いと思い、引き抜こうと左腕に力を籠めると。

 

 むにゅん。

 

 気が付けば反対の腕は握った弁当が巻き込まれない様にと、胸元くらいの高さまで持ち上げていたのだが災いし、手の甲が翔子の胸に思いきり触れてしまっていた。


「「「…………」」」

 互いの状態を理解するのに、俺達はたっぷり三秒程顔を見合わせながら沈黙をした。


「……俺先生から椅子借りれないか聞いてくるから、二人とも一度退いてもらってもいいかな?」

「「……はい」」

 照れたように顔や耳を赤くさせる二人を尻目に俺はソファーから脱出する。


 普段から膝枕や手を繋ぐなどは慣れているけど、こういった不意打ちには俺達の誰もが今だ耐性を持ち合わせておらず。

 俺の心臓は煩いほどに脈打ち、顔が火照るどころか、一気に体温が上がり体中が熱くなっていて――。


 ちなみにこの後鹿野先生に騒ぎすぎと注意されたのは言うまでもない。

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