否定

 二人の声に驚いて、俺はハッと我に返る。

 里香と翔子は険呑な表情。鋭い目つきで園原先輩を見ており。

 そんな二人の表情に、当の先輩はというと、唖然とした様子で。

「……まさかそんなに強く断られるとは思わなかったなぁ」

 と、呟く。

 俺もそれには同感だ。

 里香はそれなりのボリュームで、翔子は声こそ控え目だったが、その分ドスが効いたというか……。

 別に自分に言われたわけでもないのに、隣で守られていた俺まで恐いと思うレベルの口調に、正直驚きを隠せない。

 そりゃ、翔子が怒ると恐いのは知っていたが……。


 俺は少し前の里香の様に、先輩と二人の顔色をチラチラと気にながら周りに目を向けて見れば。

 里香の声がそれなりに大きかった事もあり、周りの生徒も何事かと、少しざわつく始末。

「ま、まぁまぁ。取りあえず一旦落ち着こうか」

 これには先輩も困った様子で、二人を宥める様に、身振り手振りを交えて落ち着かせよう声をかけるが。

「私たちは落ち着いてます」

「先輩こそ、そんなにアタフタとしてないで、少し落ち着いたら如何ですか?」

 こわいこわいこわい。


 なんだろう。この居た堪れない感は……。

 会話の流れ的に今俺の話をしていたと思うのだが、おかしいな。この場の雰囲気が俺は邪魔だと訴えかけてきている。

 女の戦いに、男は不要。みたいな。

 この状況は、流石に俺も割って入った方がいいのだが、なかなか声を発しにくい。

 とはいえ、静観した所で益々観衆の目が増える一方だろうし、双方にとってメリットが皆無なこの状態。

 里香と翔子は冷静だと言ってはいるが、明らかに頭に血が上っている様子だし……。

 俺は覚悟を決めるのにたっぷり数秒有してから。

 

『ぱんっ』


「よし。取りあえずまた明日話をしましょう。ウチの二人もちょっと様子がアレですし、先輩にも失礼な事を言ってしまいましたので、これで終わりは申し訳ないです」


 左程大きな音が鳴らない様に加減をしながら、俺は一度手を叩き、三人からの注目を集める。

 場の仕切り直しは、正直俺達にとって良い事など無いのだが、流石に先輩を無下にもできない。

 この件で怒った先輩が、ある事ない事面白おかしく記事にでもされて、学校でばら撒かれたら二人の生活にも影響が出てしまうし。


 そんな考えの元、発言したのだが、両隣の二人からは不満なようで。里香には周りにばれない様に足をガシガシ蹴られるし、翔子からは俺の太腿に手を伸ばしたがと思ったら、むぎゅっと抓ってくる始末。

 器用に足の甲で脛を蹴られ、さりげなく立てた爪で服の上から軽く抉るように抓られ。

 絶対これ、『俺がモテたいから先輩に記事書いてもらおう』と企んでるとか思われていそうで、かなり釈然としないが。

 今は我慢をしながら、先輩に出来るだけ笑顔を向けて、話を続ける。


「先輩さえ都合が付くのなら、明日の昼休みにでもまた同じような席を設けるって事で、どうでしょうか?」

「う、うん。そちらがそれでいいのなら構わないけど……大丈夫なの?」

「えぇ。こちらでもしっかり話をしておくので。ただ、色のよい返事はできないかと思いますが」

「わかった。こちらも何かしらの交渉内容は考えさせてもらうよ。その内容次第でまた考えてくれたらいいから」

 ありがとね。と最後に会釈をして、先輩は食べていた食器を持って、返却口の方へと消えて行った。

 

 後に取り残されたのは、今だ注目を集めてしまっているこの観衆と、すまし顔で食事を再開させながら、地味な嫌がらせを見えない所でしてきている二人に被害者の俺。


 はぁ。どうしたものかね。

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