4.甘くないパイ

 部屋の掃除をしていたら、数年前に買ったラズパイが出てきた。手の平サイズのコンピュータで、IoT工作などが出来る代物である。何で買ったのか全然覚えていないが、多分暇だったのだろう。そして持ち前の不器用を存分に発揮して挫折し、箱の奥底に仕舞い込んだに違いない。

 高くも安くもない買い物だが、かといって捨てるのは忍びない。どうせ在宅で暇だし、何か作ってみるかと検索エンジンに「ラズパイ 出来ること」と文字列を打ち込んだ。


 買った当時よりも結構な量のサイトがヒットした。「センサーで反応する防犯ライトを作ろう」だの「シンプルなスピーカーを作ろう」だの、色々な内容が羅列されている。

 へぇー、なんて思ったのは一瞬のことで、後は「別にこれ作ってもなぁ」という感想しか出なかった。そもそも私は「いつか役に立つからお勉強しておこう」とか出来ないタイプである。必要なものを必要な時にしか学ばない、なんとも残念な生態をしている。昔、某教師ドラマを見ていたら主役格の生徒が引きこもりの兄のことを「お兄ちゃんは本当に勉強が好きだったんです」と言っているのを聞いて、しゃっくりが出るほど驚いたぐらいだ。それぐらいに学習に対して及び腰である。


 ラズパイにしても同じことで、今欲しいものじゃないと作る気にならない。エアコンのリモコンを外出先から操作したいと思うことなんて無いし、温度センサを接続して水の温度を測ろうとも思わない。手を入れて火傷したら熱湯だ。シンプルオブザベスト。


 まぁこれらの作成例も、きっと作った人がその機能を要したのだろう。そうでなければ完成精度というものは低くなる。ただ「文章を書きましょう」と言われただけでは、ぼやけた構成になるのと一緒だ。物事には理由が要る。


 逆に今自分が欲しいものを考えることにした。平素の生活で「これがあればいいのになー」と思っていることを探せば良い。そこにどうにかしてラズパイを介入させれば良いのだ。

 しかし、普段からあまりハイテクな技術を要さないため、殆ど思いつくものがない。何しろ趣味が「小説を書くこと」なので、大した設備を必要としないのである。寧ろ必要としているのはタッチの軽いキーボードとか性能の優れたマウスだ。あと良くCMでやっている、卵置いて座っても割れないクッション。去年の忘年会で良く似た偽物を貰ったが、やはり本物が欲しい。本物ならハニカム構造を一ヶ月以上はキープしてくれるはずだ。今、臀部の下でグシャリと潰れた何かにはならないと信じている。


 草臥れたクッションの上で姿勢をただし、一先ず別の作業でもするかとブラウザを閉じ掛けた時にふと思いついた。ラズパイは小さなコンピュータである。なのでパソコンのようにも使うことが出来る。つまり、ハードディスクの管理も出来る。


 そうだ。ファイルサーバにしよう(BGM:My Favorite Things)


 二つのパソコン間でファイルのやり取りをするには、USBとかHDDにデータを入れるのが簡単な方法であるが、それだといちいち抜き差しをしないといけないので面倒だ。だがファイルサーバにしてしまえば、片方のパソコンからそこにデータを格納し、もう片方はそこから取得出来る。


 現在テレワーク中でいくつかのパソコンを用途によって使い分けているのだが、データのやり取りが非常に面倒臭い。「データ確認用のパソコンでファイルを作成し、メール用のパソコンに入れる」みたいなことをしている。そろそろ家電量販店で購入したUSBが謀反を起こすだろう。そして私は本能寺で討ちとられる。それは良くない。

 調べたらファイルサーバにする方法も書いてあった。検索エンジンとっても便利。ファイルサーバ自体は仕事でよく作っているので、その技術を適用すれば問題ない。


 目的が決まると非常に心が軽くなるものである。早速取り掛かることにした。

 因みにテレワークが終わった後は特に使い道がなくなるので、可愛いひよこの写真を入れる場所にする予定である。

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