第2話 俺の嫁

 乗り込んだ車はなんと——リムジンだった。


 車内には運転手と他に2人の先客がいた。



「あれ?」

「え?」



車内にいた内の1人が紗良の顔を見るなり声を発した。

紗良も思わずその声の先に視線を向ける。



「(わぁ、こんな可愛い男の子いるんだな……)」

「あ、ごめん。

なんでもないよ、どうぞ」



紗良が男の子の顔に見惚れていると、男の子は申し訳なさそうにそう言ってきた。


 そして、イケメンは空いている席に座ると隣の席をポンポンと、叩き座るよう促した。

 

 

「お前、名前は?」



 座ると同時にイケメンは彼女に声をかける。



「あ……えっと、青山 紗良アオヤマ サラです」



 あまりの近さに彼女、紗良は顔を逸らし答えた。



「紗良か……。

俺は影山 柚稀カゲヤマ ユズキだ」



 柚稀の顔は整い、黒髪とスーツが良く似合っていた。



「はーい! 僕は日高未来ヒダカ ミライだよ。さっきはごめんね。

よろしくね、紗良ちゃん」



 先程とは打って変わって、とても人懐こい笑顔を見せた未来はまるで子犬のようだった。


 そして、ミルクティーブラウンの髪色がよく似合っていた。


 

「私は柚稀の兄の恭介キョウスケと申します。よろしくお願い致します」



 恭介はピシッとしたスーツに身を包み、黒髪短髪に眼鏡と知的なイケメンだ。



「は、はい……」

「(さっきから、皆してよろしくって……なにがよろしくなんだろう?

早く帰りたいけどお金どうしよう……)」

「で、運転手の加藤カトウだ」



 紗良は運転する加藤に視線を向けた。


 加藤はそんな紗良に気づきミラー越しで会釈をした。



「さっきの10万だが、あれは俺が立て替えた。

だから払えよ……身体でな」

「なっ!」

「(か、身体でって……どういうことよ)」



 紗良は恥ずかしさからか頬を真っ赤に染めた。



「当たり前だろ。

お前にすぐ10万円なんて用意出来ないだろうし」

「(それは……反論できないけど。

なんで初対面の人にそんな……)」

「期間は1ヶ月」

「1ヶ月……?」



 1か月という柚稀の言葉に紗良は俯いていた顔を上げた。



「お前、今日から俺の嫁な」

「えっ! 嫁!?」


紗良は驚き開いた口が塞がらずにいた。


「違うな。1ヶ月間俺の家政婦兼仮嫁な。

お前は違うこと想像してたみたいだけど」

「え、どういう……。

そ、そんな想像してないです!」

「どうだか。まあ、詳しいことは家で説明すっから」

「(あーもう! 恥ずかしい。

勘違いしちゃってたよ……。

てか、意味が分からないから聞こうとしたのに教えてくれないし……)」



 紗良たちを乗せたリムジンの車内は無言のまま、とある高層ビルの前に停まった。



「降りろ」

「えっと……」

「早くしろ」

「は、はい」



 言われるがまま紗良は車外へと出た。



「行くぞ」

「えっ……」



 柚稀は紗良の手を引きビルの中へ入って行く。


 ビルの自動ドアを抜けると奥にエレベーターがあり、柚稀と紗良はそれに乗り込んだ。



「(最上階……)」



 柚稀は最上階のボタンを押し、しばらくするとエレベーターのドアが開いた。



「降りるぞ」

「は、はい」

「(口調はきついけど必ず降りる時とか声かけてくれるんだ……)」



 柚稀はエレベーターから降りると右奥へ歩いて行く。


 突き当たりまで行くとそこで足を止めた。



「入れ」



 カードキーでドアを開け先に紗良に入るよう促す。



「は、はい」



 紗良が入ったのを確認すると柚稀も入り鍵を閉めた。



「そのまま奥の部屋な」

「はい」



 玄関で履物を脱ぐと2人で奥の部屋へと向かう。



「……ここは」



 奥の部屋はリビングになっていた。


 綺麗に片付けてあり、あまり生活感が見られない部屋だ。



「俺の家」



 ビルのような建物はどうやらマンションだったようだ。



「えっ! な、なんで私は影山さんの家にいるんでしょうか?」

「なあ」



 部屋に入り立ち尽くす紗良に柚稀は声をかけた。



「は、はい」

「その影山さんっていうのやめろ」

「え、でも」

「言っとくけど、兄貴も影山だからな」

「(あ、そっか……。

どっちも影山だから区別つかなくなっちゃうよね……。

じゃあ、なんて呼ぼう)」


 紗良が呼び方を考えていると——



「柚稀」


柚稀はそう呟いた。



「えっと……」

「下の名前で呼べ」

「じゃあ……柚稀さんで」

「まあいいや」

「そこ座ってろ、コーヒーと紅茶どっち」



 柚稀に言われたソファーへ紗良は腰掛けた。



「えっと……紅茶で」

「ん」

「(なんで私ここにいるんだろ……。

家に帰りたい」

「ほら」

「あ、ありがとうございます……」



 柚稀は紅茶の入ったマグカップを紗良へ渡した。



「(……これ飲んで平気かな。

なんか入ってたり……それはないか)」

「飲まねぇのか。

……変なもんは入れてねぇから」

「はい……」

「(え、なんでわかったの?

もしかして私、心の声漏れてたかな?)」



 柚稀の言葉に戸惑いながらも紗良は紅茶に口をつけた。


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