エピローグ 人が人と関わること
1.明日の予定
「ハロハロ―! 今日もみんな元気かい?」
その日一日がどうであっても、配信画面を開くとセットされる呉井心というキャラクター。
「古美くんは今日のテストどうだったんだい? オレはテストの日なんて貴重な睡眠時間だったけど、古美くんは真面目だから解答用紙をしっかり埋めたんだろうなぁ」
いちご
「クレしんはテスト以外も睡眠時間じゃない?」
古美
「テスト勉強がしっかりできたので、手応えはありますよ」
只野人間
「古美さんは真面目だなぁ」
変わらぬメンツとの他愛ない会話。これにどれほどオレが救われているか、こいつらは知りようもない。
知らないからこそ、大事にしたいと思うのに、知らないからこそ、その輪を乱されるのが嫌だった。
グングンぐると
「社会人になったら毎日がテストみたいなもんだぜ」
児島
「ぐるとは赤点ばっかりなイメージ」
ぴゑんマン
「テストの点に一喜一憂するころが懐かしいですねッ!」
考えに耽っているとコメントだけでどんどん進んでいく。オレがこの場に居なくても、会話が続いていくことが少し嬉しい。
ねぐせ君
「あら? クレしんさん、もうおねむですか? おしゃべり止まってますよぉ」
「ふっ、ねぐせ~煽るじゃんよ~。まぁちょっと眠いのは本当。昨日から徹夜でFFやっちまったんだよなぁ」
いちご
「またそうやって」
児島
「相変わらずだな」
只野人間
「クレしんさんの私生活って謎ですよね」
「いやぁ、エアリスがかわいくってさ~。天然かと思いきや、しっかりしてるところもあるし、あれにぐっと来ない奴は男じゃねーよ!」
ぴゑんマン
「ボクはティファ派なので分かりませんね~」
古美
「シリーズ一作目は、僕は多分生まれてないです」
児島
「古美くん、まじか……」
流れていく時間が愛おしい。なんだかんだと適当に時間を過ごして、配信を終えた。
只野人間と一悶着あったあの日から、だいぶ時間が経った。今ではふつうに、出会った頃よりも仲良く同じ空気を吸えている気がする。
あの日のことを思い返すと未だに恥ずかしさで赤面してしまう。たかがネットの関係で、あそこまで自分が熱くなるとも思ってなかったし。
『配信おつかれさまー。明日どうする?』
いちごから連絡が来た。
長いことオレの配信に来てくれている女の子。ネットの住人に会うなんてこと、只野に会う前のオレなら考えもしなかったことだ。
只野人間が愚直なほどまっすぐに進んでいく姿を見て、オレもがんばってみようと背中を押されて、いちごと会うことにしたんだ。
……違うな。只野人間にも動いて変えていける人生があるなら、オレにだって変えられる未来があるはずだって自信に近い。
友人であり、ライバルであり、お互いの姿を見て自分を動かすことのできる関係。これを世の中では友情というのだろうか。
『いちごの来やすいところでいいぜ。時間はあんまり早いとオレ寝てる可能性ある(笑)』
返事を打って、これからの未来を思い描いてみる。
変わらないモノなんてない。自分という存在も、相手も、環境も。それでもその中で、自分を高めていくための選択をすることはできる。
『わかったー。じゃあ、11時に駅で待ってる。明日、楽しみにしてるね』
顔も知らない、場所も知らないけど、仲間ががんばってるんだ。
オレも負けていられない。
『おっけーおっけー。いちごに会うために、朝がんばって起きるわ。オレも楽しみにしてるよ』
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