第2話 奴隷の女


 奴隷館、館長の部屋には、とある性奴隷が呼び出されていた。その性奴隷は白い肌、白い髪、とても美しい顔をしているが、どこか近付きがたいオーラをまとっている。

 その性奴隷は、館長の前に座らされ、叱責を受けていた。


「イロナさん……どうしてあんな事をするのですか! 三件目ですよ!? またうちは、賠償金を支払わなければならないじゃないですか!!」


 イロナと呼ばれた女性は、顔色ひとつ変えずに答える。


「別に……普通に夜伽よとぎをしただけだが?」

「普通にして、どうして怪我をするのですか! 部分欠損でも治せるポーションを持っていなかったら、死んでいたかもしれませんよ!!」

「我のテクニックに敵わなかったのだな」

「なんの勝負をしてるんですか! 寝るだけでいいんです! 抱くだけでいいんです!」

「そうしたが?」


 怒っているのは館長なのだが、偉そうなのはイロナ。まったく話の通じないイロナに、館長はため息しか出ない。


「それより、次の主は決まったのか?」

「昨日の今日で決まるわけがないでしょ! もういいかげん性奴隷は諦めて、戦闘奴隷になってくたださいよ~」


 まったく話を聞いてくれないイロナに、館長は怒った顔から、泣きそうな顔に変わった。


 それは当然。このイロナ、ただ者ではない。


 自分で性奴隷にしてくれと、奴隷館の扉を叩いたのが一ヶ月前。館長はイロナの綺麗な顔を見て売り物になると考えたが、借金も無い犯罪者でも無いイロナを、奴隷にする事がこの国の法に触れる。

 館長は泣く泣く丁重にお断りしたのだが、イロナはそれならばと、館長の机を拳で叩き割った。それでも足りないなら、館長の手足を引きちぎろうかと脅されて、泣く泣く机代を借金として、奴隷にする事となったのだ。


 イロナを手元に置いておきたくない館長は、懇意にしていた貴族を呼び寄せると、容姿がいいのですぐに売れてひと安心。しかし翌日には、返品プラス慰謝料を請求されてがっかり。

 取り戻そうと大商人や高給取りの騎士に売ってみたが、翌日には慰謝料が膨らむ始末。信頼も傷付き、イロナの借金も膨らみ、打つ手が無くなってしまったのだ。


 そんな折、館長室のドアがノックされ、中に入って来た奴隷の女性が客が来たと言った。


「では、参ろうか」


 客が来たと聞いたイロナは立ち上がる。


「ま……待ってください!」


 それを焦って止める館長。


「どうした?」

「ま、まだ、性奴隷を希望と決まっていないでしょう?」

「ふむ……ならば、自分で売り込むとしよう」

「聞いてくれないのですね。こうなったら……」


 館長の奥の手。奴隷には、魔法を使って奴隷紋が刻まれている。主人の命令を背く場合に使われ、耐えがたい苦痛を与えて屈伏させる。それでも命令に背く場合は、最悪、死の危険がある。

 その権限を現在持っているのが館長。聞き分けのないイロナに使ったのだ。


「またやってるのか? こそばゆいからやめろと言っただろ。それよりさっさと行くぞ」


 もちろん何度やってもイロナには効かない。勝手にドアを開け、応接室に向かうのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 応接室に通されたタピオは、かつてないほど緊張していた。性奴隷を買えば、三十年以上も掛かっていた童貞という呪いを解除できるのだから致し方ない。ズボンの一部がテントになってしまっても、仕方がないのだ。

 そうして待っていると応接室の外が騒がしくなり、ドアが開く事となった。


 その瞬間……タピオは恋に落ちた。


 一番始めに入って来たのはイロナ。その白い肌、揺れる白い髪、綺麗な顔立ち、歩く姿に目を奪われ、息を吸う事も忘れた。


 そして時間が飛び、目の前に座る館長の紅茶を飲むように勧めた声で、タピオの時間が動き出した。


「あ、ああ。これを飲めばいいんだな」


 ゴクゴクと熱湯の紅茶を飲み干したタピオは、カップをテーブルに置くとイロナを見つめる。

 館長は熱湯を一気に飲み干した姿に驚いていたが、なかなか用件を切り出さないタピオに、自分から質問する。


「それで……今日はどういったご用件でしょうか?」

「あ、ああ……。ここに来れば、性奴隷を買えると聞いてな」


 タピオのセリフに、館長より先にイロナが反応する。


「ならば我を買うとよ……」

「わ、わ~~~!!」


 しかし、館長は大声でイロナの声を遮った。タピオも不思議そうな顔で見つめる中、館長はイロナに「上手くやるから少し黙っていてください」と耳打ちする。


「しかしお客様は、奴隷を買えるほどお金を持っているようには見えないのですが……」


 タピオの服装は、皮の胸当てと布の服なので、到底お金持ちには見えない。


「奴隷とは、それほど高価な物なのか……」


 タピオも館長のゴミを見るような目を見て、暗い顔に変わる。しかしその時、館長の顔が悪い顔に変わった。


「もしかしてお客様は、冒険者様ですか?」

「そうだが?」

「でしたら、こちらのイロナさんをお勧めします! 性奴隷としてより、戦闘奴隷として買われてはいかがですか?」

「いや、俺は性奴隷を……」

「おい!」

「ぐふっ」


 ペラペラと喋る館長の首を掴むイロナ。館長は高々と片手で持ち上げられ、手足をバタバタとして苦しそうにする。


「性奴隷として売れと言っているだろう」

「は、離して……」


 イロナの手をパンパンと叩いていた館長は、ソファーに落とされて息を整える。そうしてイロナに話があると言って奥に消えて行き、説得してから二人で席に戻る。


「こういうのはどうでしょう? お客様は性奴隷として買い、戦闘奴隷としても使う」

「いや、性奴隷だけで……」

「まぁ最後まで聞いてください。失礼ですが、お客様はあまりお金を持っていないと存じます。なので、イロナさんも戦闘に参加してもらい、お金を稼ぐのです。そのお金を月々納めてくれれば、皆、ハッピー。お客様の懐の負担も減らせますし、夜も楽しめます。その代わりと言いまして、返品は受け付けませんし、イロナさん関係での怪我等の慰謝料は支払いません。お得な条件ではないですか?」


 早口で捲し立てる館長に、タピオはどう答えていいものか悩む。悩んでいる理由は、自分に有利に聞こえたので、また騙されるのではないかと……

 もちろん館長に思惑はある。返品不可、慰謝料無し、イロナをタピオに押し付けられれば、館長一人はハッピーなのだ。


「イロナさんと言ったか……値段はいくらなのだ?」

「借金が膨らんでいますので、金貨二千枚となっています」

「確かに高いな……」


 一般的な冒険者の暮らしは、一月に金貨5枚。年間100枚もあれば、そこそこの暮らしができる。


「わかりました……少し値引きしましょう」


 タピオはそれよりお金を持っているから違う意味で悩んでいたのだが、払えないと感じた館長は、苦肉の策で提案する。


「千! 金貨千枚でどうでしょう!? これ以上まけられません!!」


 一気に半値まで落とした館長。本当のイロナの借金は金貨千枚なのだが、どうしても手放したい館長は、大きく吹っ掛けてお得感を出したのだ。


「千枚を分割……」

「年間100枚、十年契約でどうでしょう? もちろん無利子とさせていただきます。中堅冒険者の一般的な収入になりますが、イロナさんと共にダンジョンに潜れば、その倍は確実。それより多くの金貨が手に入るはずです」

「なるほど……」


 今までの話を聞いて、タピオはまた悩む。イロナは館長を片手で持ち上げた姿も見ていたので、確かに戦力になる。金貨千枚の価値も、見た目を加味すれば納得できる。

 タピオの稼ぎは年間金貨500枚を超えるので、余裕で払える。何より、こんな美人に性処理をしてもらえるなんて夢のまた夢。

 タピオの股間は立ち上がった……もとい、タピオは前屈みに立ち上がった。


「買おう!」

「お、おお~。お買い上げ、ありがとうございます~」


 こうして各種手続きを終わらせたタピオは、イロナを伴って奴隷館を出るのであった。



「主殿……主殿?」


 足早に歩くタピオは無口で、イロナが呼んでもなかなか気付かない。


「主殿!!」

「ん? あ、ああ。俺か」


 強く呼び付けられて、ようやく自分が呼ばれていると気付いたタピオに、イロナは問う。


「どちらに向かうのだ?」

「宿屋ですが……」

「そうか……てっきり家を持っているのかと思ったのだが、違うのだな」

「あ……イロナさんはそっちのほうがよかったですか……」

「かまわん。どこででも、やる事は同じだ」


 男前なイロナに、タピオは気後れして敬語になっているようだ。しかし、イロナはそれが気に食わない。


「主殿は我の主なのだから、もっと威厳を持って喋ってくれないか?」

「威厳ですか……」


 タピオは足を止めて振り返ると、イロナの目を見る。


「イ、イロナ……」

「なんだ?」

「や、宿に急ぐぞ!」

「わかった」


 ぎこちない会話をしたタピオは早足で歩き、それに合わせるイロナ。まるで競歩のように競争する二人は、町の者に不思議な目で見られていた事に気付かないまま、宿屋に到着する。

 この宿は、タピオが助けた老人のお勧めの宿。値段を見て、タピオは少し戸惑ったが、イロナを連れているからかそのまま扉を潜る。

 宿の者にも少し場違いな目を向けられたが、前払いで支払えば、その後は丁重にもてなされて、そこそこの値段の部屋へ通された。


 そこで夕食をとり、タピオは備え付けのお風呂に入ろうとする。


「我の出番だな」


 同時に立ち上がるイロナ。しかし、タピオは慌てて止める。


「ひ、一人で入る!」

「何故だ? 洗うのも性奴隷の仕事だろう?」

「今日だけ……少し気持ちを落ち着かせたいんだ。頼む!」

「……そこまで言われては、性奴隷としては断れないな」

「楽にしていてくれ」


 ひとまず一人でお風呂に入る事に成功したタピオは汗を流すと、タピオのタピオを念入りに洗う。その時、すぐにイッてしまってはかっこ悪いかと思い、一発抜いていた。

 そうしてお風呂から上がったタピオはイロナに入るように促し、ベッドの端に腰掛け、体を小さくして待つ。


 数十分後……


 お風呂のドアが開き、湯気で火照った肌のイロナが出て来た。

 イロナは一糸まとわぬ姿だったため、タピオは見惚れて言葉が出ない。


「どうした? 我の体は変か?」

「い……いや。美しい……」

「フッ。そうであろう」


 イロナは照れるでなく、誇らしげに堂々と歩き、タピオの前で仁王立ちで立つ。


「さあ! どうして欲しいか言え!!」


 性奴隷と思えないほど清々しい命令に、タピオはポカンとしていたが、これではいけないと頭を振って気を取り直す。


「それじゃあ、手で……いやいや、手なんていつもやってる。ここはやはり……」

「さっさと言え!」

「は、はい!!」


 何やらブツブツ言い出したタピオにイロナは怒鳴り付けるので、慌てて返事をするタピオ。


「で、では、口で……」

「ほう……ピーーからか。任せておけ!」

「わっ!」


 気合いの入った声を出したイロナは、タピオの脇に手を入れて立たせると、ズボンとパンツを同時にベロンと下ろした。


「フッ。準備万端だな……いざ参る! 喰らえ~~~!!」


 タピオの天を突くようなタピオのタピオを見て一笑したイロナは、とてもそんな事をするような感じのしない掛け声を出して行動を起こす。


「うっ……うおおおお!!」


 すると、タピオは初めて受けるテクニックに、おかしなあえぎぎ声をあげるのであった。


*************************************

『アイムキャット❕❕❓』

好評……かどうかわかりませんが連載中!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る