08.住民、募集します

 それから俺達はせっせとポーションを作っていった。

 薬草を混ぜる以外に手順の違いはなかったので、アナリアもすぐに順応して、二人でひたすらヒールベリーを切っては加熱していく。

 うん、こうして共同作業するのはけっこう楽しいな。


 手を動かしながら、俺はふと疑問を口にする。


「しかし、どうして薬草を混ぜてたんだろう? いつからそういう手順が増えたのかな」

「うーん……推測ですが、ヒールベリーの違いかと」

「ヒールベリーの?」


 アナリアはまだ切っていないヒールベリーをつまんで、顔の前で真剣に見つめる。


「ええ、私の知っているヒールベリーはもっと小さくて色も薄いのです。ヒールベリーは粒が大きくて色が綺麗なほど、質がいいと見なされます」

「ああ、ナールも言っていたな。こんなヒールベリーは見たことないって」

「そして色が薄いと、たくさんの薬草を混ぜないといけない――私はそう教えられました」

「なるほどな。あの薬草類でヒールベリーの力を引き出していたのか」


 俺の魔法で生み出すヒールベリーの質は均一だ。これより悪いヒールベリーというのは、逆に生み出せない。


 でも野生のヒールベリーは違ったんだな。俺のヒールベリーとは明確に差がある。

 そのままだとポーションに出来ないから、色々と混ぜていたわけか。


「あ、ちなみに俺のヒールベリーに色々混ぜるとどうなりそうだ?」

「んー……薬草は添え物なので、エルト様のヒールベリーには効果はないかと。これ以上のポーションは出来ないと思います」

「……そうだよな」

「でも手順を省けるのですから、とても助かります。素晴らしい知識――さすが大貴族の子息ですね」


 アナリアがにこりと微笑みながら褒めてくれる。

 こうしていると本当に美人なんだよな。


 人に褒められるのはあまり慣れてない。

 でも悪くないし、とても励みになる。

 よし、もっとポーションを作ってみようか。



 ◇


 それから数日後、作り終えたポーションはかなりの数になった。

 うーん、実際やるとポーション作りのような細かい作業も楽しいな。


 もちろん並行してヒールベリーを生み出したり、魔力を高めるのも忘れていない。

 最初の頃に比べると、魔法一回の疲労感は確実に軽くなっている。

 ちゃんと魔法使いとしても成長しているわけだ。


「んにゃ~、すごい量のポーションですにゃ! それとたくさんの果物も!」

「ああ、ついでに売れそうな果物――メロンとかも生み出してみたんだ」

「素晴らしいですにゃ。きっと飛ぶように売れますにゃ!」


 ツリーマンのウッドが、馬車にポーションや果物を積み込んでいく。

 こういう作業はウッドが一番向いているな。


 その作業しているそばに、アナリアが立っている。

 この数日ポーションを作りまくったおかげで、かなりの上機嫌だ。


「夢に出てくるほどポーションが作れて満足です。おかげでお肌もツヤツヤに……」

「それはないよな?」

「はうっ」


 この数日でアナリアとはずいぶん仲良くなれた。

 やっぱり一緒に作業してると距離が近づくな。


「んにゃ~、そろそろ積み込みも終わりにゃ。アナリア、ザンザスに持っていく手紙はこれで全部にゃ?」

「あっ、はい! よろしくお願いしますね」


 今回、アナリアにはたくさんの手紙を書いてもらった。

 俺が指示したので、内容はわかっている。

 要はこの領地の売り込みだ。


『エルト・ナーガシュの領地に来れば、今なら家付きで仕事もある!』

『税金は迷宮都市ザンザスと同程度! でも休日は週二日、残業なし!』

『乗るっきゃない! このビッグウェーブに!』


 と、こんなことが書いてある。

 実際はもう少し相手に合わせているが……嘘はひとつも書いていない。

 本当にこの条件でみんな働いているわけだしな。


「さて、これで人が来るかどうか」

「来ると思いますよ。薬師ギルドは悪いところではないのですが、今は仕事がないのに無駄に会議が多過ぎて……」

「……あるあるだなぁ」


 薬師ギルドの本業はポーション作り。あとは材料の管理や流通だそうだ。

 しかしここ最近は材料の実が手に入らないために、かなりの暇。

 だが遊ばせておくわけにもいかず、よくわからない会議や書類仕事が増えているそうだ。


「どうせお金も稼げないですし、それならエルト様のところに来た方がずっといいでしょう」

「ふむ……あと冒険者ギルドにも手紙を書いていたな。冒険者も暇なのか?」

「ポーションがありませんからね……。治癒の魔法使いは貴重ですし、リスクが高いままダンジョンには挑めません」


 なるほど、その通りだな。

 ポーションがないままダンジョンに潜れば、リスクは確実に上がる。

 そのリスクを嫌がる冒険者も当然いるわけだ。


 とはいえポーションは品不足でどうしようもなかった。

 だから冒険者ギルドも暇になっているんだな。

 全部連動しているわけだ。


「あとはこの辺りはまだ手付かずで、ちょっと探せば素材がありますにゃ。エルト様がお触れを出せば、冒険者も来るはずですにゃ」

「ええ、素材採集をメインにしている冒険者も多いですしね。ダンジョンに行くよりここの方が稼げそうなら、喜んで来るでしょう」

「よし、その辺りも大丈夫そうだな」


 俺は満足して頷く。

 うん、この流れは悪くない。


 俺の植物魔法から全てが動き出している。みんなが必要としてるものを、俺は作り出せるんだ。


 今回の薬師ギルドへの手紙にも機材や人員派遣を依頼している。

 アナリアいわく、これだけのポーションがあれば必ず乗ってくるそうだ。

 ザンザスで一番の薬師、アナリアのお墨付きだ。


「ウゴウゴ……きっと、人いっぱいくる!」


 お、ついにウッドも喋れるようになったな。俺の魔力もちゃんと成長している証拠だ。

 しかも嬉しいことを言ってくれる。


 よし……きっとうまくいく。俺はそう確信した。

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