第6話 非日常の幕開け

さて!なにをするにも、まずは情報収集からよね。


本当に異世界転移なのだとしても、ドッキリだとしても1日や2日は化けの皮がはがれないように製作側も全力をつくしてくれるはずだ。私がどんな行動にでるのか、モニタリングしている人が寒気がするぐらい全力で遊びつくしておかないと。被験者に私を選んだのを後悔させてやるわ。


側仕えと紹介されたアルブに確認すれば、陛下との食事までは自由時間。

おそらく陛下や宰相ペトラは仕事に追われていることだろう。頑張ってほしいところだわ。


そして、私に与えられている暇つぶしの道具は正妃の5部屋とアルブをはじめとする5名だ。



「ねえ、私にこの国についてと。そうね、魔法について教えてくれないかしら」

「承知いたしました。それでは、教育係をお連れします」

「楽しみにしているわ」



早速、情報収集のためにアルブをお使いに出す。


その待ち時間を活用して、衣装係パルにお任せで衣装を着せてもらって、この世界の人から向けられる私のイメージ像をはかる。

なるほどね、真っ白なかわいらしいワンピースで、足元はヒールが低いけど、リボンが結ばれた見た目重視の靴ときたか。


白でかわいらしいワンピースとなると、汚れのないまっさらな乙女。もっと俗な表現をしたらお金と権力の影をそぎ落としたいのがわかる。そして、ヒールがないのに見た目重視の靴が難しいわ。ヒールがないから、どうやら見栄を張る仕事をしてほしいわけじゃないのに、人前に出したときにある程度失礼がないものとなると、そうね。

異世界から召喚した聖女イケニエってところかしら。


その役目として考えれば、陛下を敬愛しているペトラが心を無にして私に仕えるのも納得する。ただし、そのペトラが一時的にでも不愉快に感じていると察した城の子たちが殺意を持つのもわかる。


でも、納得するのと妥協するのは別物だもの。



「サラ・イブリスト。いいわよ、私に思っていることを言ってちょうだい。手を出さないのであれば、だれにも怒られないでしょう?それとも、お母様ペトラに怒られるのが怖いかしら」

「ヴルコラクさまは母親ではありません。そして、それは女王陛下クイーンとしての命令ですか」

「そうよ。女王陛下わたしからの命令よ」



言い切って微笑んでいたら、周囲の家具が燃え上がった。真っ赤な髪の毛で、炎使いっぽいと思っていたら案の定だわ。

でも、想像通りだとしても、面白い。

どんなからくりで燃えているのかわからないが、家具が燃えているのに全然熱くない。


普通なら慌てて火を消そうと頑張るところだけど、まあ、テーマパークでケガしないことが分かり切っているのに、本当にお化けにおびえることができるのかってことよね。

だって、彼女サラは私の護衛、本気でケガさせたら困るのは本人だ。



「綺麗な装飾オブジェね」

「なめるな。誰がお前なんかを陛下の番として認めるものか」

「なに?自分こそが陛下にふさわしいってこと?」

「っ私の気持ちなんか関係ない。ヴルコラクさま以外の人が、この内宮を任されることがまず気に食わない」

「そう、でも、陛下に命じられたわ」

「あぁ。そうだ、最悪だ」



思ったより、この女騎士サラ・イブリスト面白い。面白過ぎて、笑いそう。



「陛下のことは大好きだけど、ペトラを敬愛しているから、ペトラなら陛下を共有しても許せるってことね。あなた、とっても面白いわ」

「なっ」



陛下は見目麗しかったし、恋をするのはわかる。そして、その隣に自分の親も同然のペトラが並ぶのは許せる。でも、他人が並ぶのは許せない。陛下への愛の重さと、ペトラへの敬愛の深さがよくわかる。


うーん、いいわね。こういうの楽しいわ。


サラは図星だったのか髪の色と同じぐらい頬を赤くして、何か言葉を発するわけでもないのに口をハクハクと開け閉めしている。まだ復旧までに時間がかかりそうだ、彼女が意味を処理している間に先ほどアルブが淹れてくれた紅茶でも飲んでおこう。


それにしても、燃え盛る炎の中に埋もれる茶器は何とも幻想的で美しい。

ティーカップのセットはいたって普通のバラの描かれたティーセットだった。アルブが持ってきたときには「まぁ、普通ね」と思ったのに、彼女サラが追加した装飾まほうで幻想的に仕上がっている。


こんなに炎になめられているのに、不思議と紅茶は干からびずにまだカップの中にある。この魔法のからくり早く知りたい、どうしてこんなに燃えているテーブルの上に置いてあって紅茶が無くならないのか不思議でならない。



「あなたも飲む?美味しいわよ」

「意味が分からない」

「どうして?」

「なんで、私の魔法と殺意を前にして、悠々とお茶ができる。私より強い者は、陛下とヴルコラクさまぐらいだぞ」

「当然じゃない」



満面の笑みを浮かべて、嫉妬に燃えるサラを見つめる。



「私はあなたの護衛としての実力を見誤ってないわ」



そう微笑んで紅茶を飲みほした。

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