ひとみをとじて

後頭部に走る鈍い痛みでふと我に返った。

私は極度の頭痛もちで、気圧の変化からなのか雨が近くなると目のまわりや顳顬こめかみがずきずきと耐えがたい痛みに襲われる。

最近はさらに後頭部にまで我慢できない痛みがずっと続くので雨降りがますます嫌になる。

こんな時は部屋を暗くして横になっているとすぐに治るのだが、今回はなかなか痛みがひかないうえに体が鉛を飲んだように重い。

どうしたものかと考えを巡らせるもののいつの間にかうつらうつらし、ふたたび耐え難い頭の痛みで我に返る。

繰り返す痛みに耐え、何度目かの思案に暮れていると頭の上で物音がして急に目の前が明るくなった。


見つかりました!


そうだ、思い出した。

私、彼に突き飛ばされた拍子に思い切り頭をぶつけて…。

そっか、あのとき死んだんだ…。

どうりで体が思うように動かないわけね。

おまわりさんに地中から掘り起こされ、くるまれていたシーツが取られる。

顔にぽつぽつと涙のように雨粒がかかるけど、死んでるから誰も拭ってくれない。


警察官に付き添われ腰縄と手錠でいましめられた彼が私の身元確認のため近づいてきた。

出会った頃は優しかったのに、一緒に住み始めたら気に入らない事があると一方的に私が殴られてばかり。

なにも殺すことないじゃない。

せめて、私が死んだ時に瞳を閉じてくれたらあなたのそんな姿を見なくてすんだのに。

あなたはきっと愛情のなくなった女の死体なんて早く処分したかったんだろうけど、私は…。


私は頭の痛みも死んだことも忘れ近づく彼の喉笛におもいきり噛みつきその肉を食いちぎってやった。

これでやっと死ねる…。

私は周りの悲鳴を耳にゆっくりと瞳を閉じた。




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