僕から見た彼女

無知とは罪で、しかし僕は踏み込めない


ニビとは偶像である、と僕は思う。

アイドルとか、そんな職業的なものではなくて。誰かの根底が求める理想の姿。


知り合ってもう6年は経つ。

当時高校生だった僕にとっては【イケナイコトを教えてくれるオネエサン】だったのに。


それからニビは全く変わっていないのだ。

髪の艶も、色気のある口元も。

もはや魔法といったっていい。




「……ニビ、起きてよ」



「…………ん……」



「一緒にお風呂入ろうよ」



「……連れてって」




珍しく子どもみたいにシーツを掴むニビをクスッと笑った。


変わっていく僕と、変わらないニビ。

僕らの関係は発展しないのに、立ち位置は変わっていて、ニビといるのは全く飽きないのだ。



嫌がるニビを抱き上げ予めお湯を張っていた湯船に落とす。

こういうホテルのバスルームは広くなっているので好きだ。


ニビの後ろに回り込み、かなり密着した状態を作って暖かい風呂の中、ニビの肌の滑らかさを楽しむ。




「……ねえ、当たってる…」


「そうだね」


「………シたいの?」


「うん」


「い、や……」




眠そうな、掠れたこえで僕を拒否するニビ。


だけどニビはすぐに快楽に落ちることを、長い経験から僕は知っているのだ。



胸は触ってやらない。最初から秘部に触れた。最も弱い場所をキュッと摘むと、ニビは大きく肩を震わせた。


それを何度も続けると次第に荒くなる吐息。指を砦にゆっくりと入れ、円を描くと漏れた甘い声。

その声を聞いて、一気に僕はニビと結んだのだ。


「あ、あああぁぁッ!?」









「今日の夜、店においで」


「な、ん……でッ!」


「新作の様子、見たくないの?」


「〜〜ッ!!」


「あ、気持ちいい?」


「喋んないでッ!!」





僕の背中を掻き抱くニビが愛おしくてしょうがない。

プライドが高いから僕に縋るのなんて大嫌いな癖に、快楽には弱いから。

餓鬼だと思っていた僕すら求めるニビが好きで、憎い。



「イキ、そ……!!」


「う、ん。僕も……!」


「ッああああぁぁ!!」




真っ白なニビを真っ赤に汚した。





♦︎♢♢





「肌艶は保ってるよ。髪もちゃんと手入れしてる」


「仕込みは?」


「もちろんした。彼女、虐められるのが好きみたいなんだ」


「需要、あるわね」


「今日から店に出そうと思ってる」





綺麗な仕事なんかじゃない。

法律アウトで人権無視。

無法地帯の女王様のニビだからできる仕事。



そこら辺のソープと一緒になんかできない。

ここにいる【コレクション】はニビ自らが調達したお人形たち。

詳しいことはわからないけど、良家のお嬢様だってこのコレクションにあるらしい。




ニビの太いパイプから繋がる奴ら。

政治家、経済界のトップ、医者、国家公務員……

表の顔が立派であるからこそ、ニビの店で自らの性癖を隠していく。

だからこの店は潰れない。ニビは逮捕されない。



目の前で人形のように座る女の顎を持ち上げて最後のチェックをするニビ。

ニビに触れられた女は微かに頬を染め、それが妙に無表情と合っていた。





「人間が一番美しい瞬間って知ってる?」


「…わかんないよ」


「………片思いしてるとき。叶わない恋をするとき。理想から目を背けて現実を染めるとき」


「…どういうこと、」


「頭の中が誰かでいっぱいなの。この子みたいに、ね」




どこかの映画のヒールみたいに小さく笑ったニビ。

そして女に興味が無くなったように視線を逸らすと、女はやっぱりお人形みたいに黙り込んだ。




「これが美しい、か」

ニビもそんなことあったの、なんて聞けなかった。

だってニビは僕に語ったことを後悔したみたいだったから。

この子、店に出していいわよと言ってニビはオーナー室に閉じ篭ってしまった。





高級ホテルみたいな内装のニビの店。

だけどやっていることはエゲツない。



金持ちはここを利用してニビのコレクションを抱く。

決して露出しない秘密。

仮にパパラッチがここを出入りする大物を見たところで、それが記事として世に出回ることなどない。




僕はそのシステムを全く知らないけど、ニビが常識では考えられないことをしていることはわかる。


お淑やかなお嬢様を、勝気な少年を、この天国に見せかけた地獄に引き込む手腕。

ニビのコレクションはいつだって綺麗で、育ちの良さが見え透いていた。




どうやって、なんて聞かない。

それを聞いた瞬間、僕はニビに捨てられてしまうだろう





だから今日も、


「…….新作を頼む」


「承りましたぁ!!」


ニビのコレクションを管理するしかないのだ。




…それしか、僕に価値はないのだ。












この焦がれる想いを押し殺して






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