15話 粗末な朝食



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フランゼ国王 東ケルン城 午前7時 11分 57秒

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日本人と言う奴らの性だとでも言えば適切だろうか?どうしても食事には一定のクオリティーを求めてしまう癖がある。




元来食べ物には困らなかった豊かな日本と言う島国の民は、甘い物からしょっぱい物まで四季折々の様々な美味しい伝統食「日本食」によって舌づつみをしていた。



だからこそ……元、日本人の俺にとってこの異世界メシは拷問に近かった。




そう言えば古代終盤から中世にかけてのヨーロッパの食事は余り美味しくないと聞いた事がある。



それだって紅茶とスコッチにしか感心のない英国紳士どもの物と比べれば多少成りともマシだろうと、たかをくくっていた。



加えて言えばラノベ文化の浸透し過ぎかエスニックなイメージの異世界メシに何処か期待すら覚えていた始末である。



だからこそ、訂正しよう。


そう考えていた数分前の愚かな自分をグーで矯正してやりたい、と心から願って止まない程に…だ。



こんな物は人の食えた代物じゃない。




大きな丸机に並べられて行く食事と言えば、雑穀を石臼で砕いて煮込んだだけのドロドロのお粥。



童話で魔女が使っていそうな大きくてどす黒い鍋に、手元のお椀ごと突っ込んで汚ならしくよそえば食事の準備は完了だ。



陛下と姫様には一応木製のスプーンが用意されているが、使用人を始め俺とリリーヤちゃんの手元にはスプーンもフォークも無い。


これが意図する所は手掴みだ。

日本人の観点から言わせて貰えば余りにも不衛生極まり無い。



とても上級階級の囲む食卓とは思えない俺はただ呆然と立ち尽くしてしまった。



家畜も食わぬであろう白濁した粥を目下に捉えた俺は改めて自問する。


これは本当に"食料"なのだろうか?



だからこそ、ここ数日の間はあれでも恵まれた普通な食事を取っていたのだと思い知らされる。


朝晩の2食だったが硬いライ麦パンと瓶詰めの木苺ジャム。



それは美味しくも無いが普通に食べられる"食料"だった。



それに今日を含めれば7日余りはありつけていたのだ。



なのに今になっていきなり……昨日までのパンとジャムは一体何処だ?



今日も折り目正しくスーツを着こなすリリーヤちゃんを側まで呼び寄せると、彼女の赤く透き通る瞳に立ち竦んだままの俺が反射して写っているのが見える。




「リリーヤちゃん、すまんが尋ねさせてくれ。"食料"は何処だ?人が食べられるヤツだ。」

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