絶対ヒロイン諦めないマンと絶対フラグへし折り彼女

雨川 流

第1話 ベイベー君は地上に舞い降りた天使

 やぁ、俺の名前は泉崎 紅麗(せんざき くれい)。ここ『都立紫桜学園』に通う二年生だ。突然だが俺は今からある人に告白するからまずは黙って見ていてくれ。


 昼休み。思いを打ち明けたい彼女をいつもの屋上に・・・呼び出したいが屋上が使えるのはアニメの世界だけで実際はガチガチに施錠されているのでとりあえず屋上へ繋がっている廊下に呼び出した。4階建ての最上階。そこに彼女のか細い白魚のような手を連れたどり着く。


「お、泉崎がんばれよー」

「飽きないねー」

 クラスや廊下を行く友達がヤジを飛ばしてくる。そんなことには目もくれず、俺と彼女は屋上前に辿り着いた。


「泉崎君、話って何?」

園宮そのみや、すまんな。ちょっと大事な話があって・・・」

「うん。いいから要件をさっさと言って。」

 眼も合わせることもなくただ淡々と話す彼女。普段からあまり表情に変化がないのだが、今まったく興味がなさそうなことだけは見て取れた。


「園宮、その・・・俺と・・・俺とつき」

「嫌です。」

「ですよねー。」

 それだけ言い残してすたすたと階段を下りていく彼女。畜生このまま終われるか!


「園宮さん!」

「なによ、まだ何かあるの?」

面倒くさそうにこちらを見つめる園宮さん。


「園宮さん、君は天使だ!僕にとって君は、この地上に舞い降りた天使なんだ。」

「あっそ。じゃあそのまま天に還ってね。さようなら。」

 そういって去っていく彼女の可憐な後ろ姿を今日も無言で見つめることしかできなかった。

 そう。それが僕、泉崎 紅麗の記念すべき300回目の告白で、300回目の失恋だった。


「よぉ紅麗。今日の告白はどうだったよ。」

 クラスに戻ると真っ先にイジってくるこいつは親友(?)の梶 光輝(かじ こうき)だ。名前は中々かっこいいが顔はまぁ俺が言うのもなんだが中の中だ。


「うるせぇな。分かりきってることをいちいち聞いてくるなよ。」

「結果が分かりきっているなら同じ人間に400回も告白するなよ。」

「いやまだ300回な。」

「どっちにしたって流石に気持ちわりぃって。大体あんなののどこがいいんだよ。」

「は?お前ふざけてんのか?」

 こいつにはいまいち園宮の良さがわからないらしい。別に分かってもらいたいとも思わないが、自分の好きな人が存外な扱いをされるのは癪に障るものだ。


「じゃあ園宮のどこがそんなに好きなんだよ。」

「ん?あぁそれはだなぁ・・・」

 梶に園宮の良さを逐一説明してやろうと思っていたその時だった。


「おーい泉崎、お前にお客さんみたいだぞ。」

「ん?あぁサンキューな。誰だ?」

 クラスメイトAが突然会話に割って入ってくる。彼はもう今後このストーリーに登場することはないだろうから、説明する手間も惜しいためそのままクラスメイトAとしておこう。


「さぁな、ただどうやら後輩の一年みたいだぞ。」

 そういってAは教室の入り口を指さした後、自分の席へと戻っていった。Aの指した方向を見ると、そこには見慣れない女子二人組がこちらをチラチラ見ては隠れ見ては隠れと繰り返していた。どうやら僕に用事があるらしい。僕のほうからは何の用事もないのだが。てか面識すらないしな。


「こんにちは、僕に何か用かな?」

 教室に入れて話すと何かと面倒なので廊下に出て話す。もじもじしている一人に対してもう一人の女子は「がんばんなよ。」などと言って颯爽とどこかに行ってしまった。


「あの、わ、わたし一年の高梨 美月(たかなし みつき)って言います。その、突然で迷惑かもしれないんですけど、これ読んでくれませんか?」

 そういって高梨 美月と名乗った少女は、可愛らしいハムスターが描かれた小さな封筒に入った手紙を手渡してきた。


「えっと、これって?」

「読んでもらえれば分かります!じゃ、じゃあすいません!お邪魔しました!」

 そう言い終わるより先に彼女はどこかへと走り去ってしまった。

 ひとまず教室の中へと戻る。自分の席に戻ると隣で梶がニヤニヤしていた。


「よお大将、今日もモテますなぁ!」

 教室から出ていった友達が、数分後に手紙を持って帰ってきたのなら、察しないほうがおかしいだろう。


「からかうなよ。脅迫文かもしれないだろ。」

 まぁそんなわけはないだろうが。とりあえず封を切って中の便箋を確認する。そこにはいかにも女の子らしい丸文字で、


『泉崎先輩

 はじめまして。いきなりのお手紙失礼します。一年の高梨美月と申します。

 先輩にとって迷惑かもしれませんが、ずっと先輩の事が好きでした。

 一度自分の気持ちを直接伝えたいです。今日お時間もらえないでしょうか。

 よかったら今日の放課後、校門の前で待っているので声をかけてください。

                         -高梨 美月   』

 と書かれていた。


「やっぱりか・・・」

まぁ想像してはいたが、それはラブレターだった。


「どうしたよ大将。ラブレターなんだろ?」

「あぁそうだよ。だから茶化すなって。」

覗き込もうとしてくる梶を適当にあしらいながら手紙を鞄にしまう。


「折角ラブレターもらったのに、なんでそんな浮かない顔してんだよ。もしかして、相手はブスだったのか?」

「そんなんじゃねぇよ。」

 たしかにそんなわけじゃない。高梨さんは寧ろ美人のほうなんだと思う。少なくとも高校一年とは思えないほど大人の女性といった魅力的な顔立ちだったし、セミロングの髪からはふわりと心地よい匂いがしていた。


「じゃあ何なんだよ。」

「別にさ、嬉しくないわけじゃないんだよ。けどさ、いくら可愛いからって、さして知らない人からいきなり好きですって言われてもな。よく分かんないよ。」

「へぇ、毎度毎度贅沢な悩みですなぁ。どうしたらそんなモテるんだよ。」

 羨ましそうに梶がこちらを睨んでくる。そう、梶の言う通りこういった経験は実は初めてではないのだ。

 

 さて、改めてここで一度自己紹介をさせてほしい。俺の名前は泉崎 紅麗。紫桜学園しおうがくえんに通う二年生だ。自分で言うのもなんだが、ご覧の通りまぁまぁモテる。学力も運動神経も一応上位だ。顔とスタイルだって、ファッション雑誌のストリートスナップを依頼されたこともあるので良いほうなのだと思う。

 こうして何度か告白を受ける機会もあったが、一度も女子と付き合ったことはない。そして、僕から女子に告白したことも一度もなかった。別に女子に興味がなかったわけではない。むしろ大アリだ。けれどどうにも他人と付き合う、他人を好きになって慈しむという気持ちがどうにもわからなかった。

 そんな僕には好きな人がいる。それが園宮 詩音(そのみや しおん)。同じく紫桜学園に通う二年生だ。今日で通算300回も告白しているのが、一度も受け入れてもらえたことがない。運動能力はよく分からないが、学力はまぁ並みといったところのようだ。少なくとも特別上位いるわけではない。そして顔は・・・可愛くなくはない。要するに普通だ。いたって普通。華やかなオーラはなく決して目立つタイプではない。それでも彼女は僕にとって特別な存在だった。


「別にモテたってなんもいいことないぞ。肝心の園宮さんには振られっぱなしなんだからな。」

「まぁそれもそうだな。いろんな人から好かれても自分が好きな人から見向きもされてないもんな。それはそれでつらいだろ。」

 その通りだ。いくらモテたって、好きな人から関心を持たれなければ意味がない。今の俺はまさしくそうだ。300回も告白して全敗。園宮さんからはずっと断られっぱなしなのだから。


 そうして放課後、手紙に書いてあったので無視するわけにもいかず俺は校門へと向かった。ホームルームが終わってすぐに教室に出たのだが、既にそこには高梨さんがいた。


「待たせたかな?」

「いいいいえ!今来たことろです!」

 急に挙動不審になりながら高梨さんが話し出す。


「泉崎先輩、改めていきなりこんなことしてすいません。」

「大丈夫だよ。手紙も読んだ。ありがとう。」

「え?!あっ、はい!ありがとうございます・・・」

 自分で手紙を渡したのに赤面して驚く高梨さんは素直に可愛らしかった。けれどどうしてもそれ以上の感情がわかない。この子と一緒にいる未来が見えなかった。つまりそれが僕の中での答えだった。


「先輩、手紙の通りです。ずっと・・・先輩の事がずっと好きでした。よかったら私と」

「ごめん。それはできない。」

「えっ・・・」

 変に期待させても悪いので早々に気持ちを伝える。


「ごめんね。高梨さんのことは正直可愛いなって思う。だけど、君とは付き合えない。僕は他に好きな人がいるんだ。」

「そ、そうですよね・・・ごめんなさい、こんな・・・ふうなことしちゃって・・・わたし・・・」

 そう言いながら走り去っていく高梨さん。いつ味わってもこの瞬間は慣れない。こうして僕は今日一人の女子に振られて一人の女子を振ってしまったのだった。

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