砂漠での甘い恋~女医は王子様に溺愛される~他サイトでファンタジー部門1位になりました

日下奈緒

第1話 恋①

小さい頃、私は病弱だった。

直ぐ風邪をひいて、長引かせて酷くさせて、何度も入院した事があった。

両親、特に仕事をしている母には迷惑をかけた。

そんな時、優しくしてくれたのが、お医者さんになりたての、津田先生だった。


『千奈ちゃん、直によくなるよ。今は大人しくしていようね。』

『はーい。』

そしていつも、頭を撫でてくれてくれた。

それが”いい子いい子”してもらっているみたいで、本当にうれしかった。

母には、「もう少し体が丈夫だと、助かるんだけどね。」って、言われていたから。


そして私は、そんな津田先生みたいになりたくて、医大に入った。

肝心の病気はと言うと、大人になるにつれ、風邪もひかなくなっていったから、大丈夫みたい。


そして念願の医大生になった時、私は学校の裏庭で、奇跡の再会を果たした。

それは小さい頃、私とよく遊んでくれた津田先生との再会。


『すみません、もしかして津田先生ですか?』

話しかけられた津田先生は、最初キョトンとしていた。

『はい。私は小児科の津田です。』

『覚えていますか?私、小さい頃先生にお世話になった、森川千奈です。』

『森川千奈……えっ!?千奈ちゃん?』

先生は茫然とした後、はははっと笑った。

『思い出した、千奈ちゃん。いつも風邪こじらせていた千奈ちゃんだ。』

『覚えてくれてたんですね。』

私達は抱きしめ合って、再会を喜んだ。

『それにしても、こんなに綺麗になってるだなんて。今、何をしているの?』

『それが、医学部の学生をやっています。』


『千奈ちゃんが、医大生?』

それにも、先生は笑ってくれた。

『じゃあ、千奈ちゃんは俺の後輩だ。』

『後輩?』

『俺も、ここの医学部を出たんだ。』

爽やかな風が吹く、新緑の日だった。


それからお昼の時間は、よく津田先生と会った。

「ごめんごめん、遅くなって。」

「いいえ。私も授業遅くなって、今来たところです。」

学校の裏庭のベンチで、一緒にお弁当を食べるのが、日課になっていた。

「先生、いつもサンドイッチ。栄養偏りません?」

「うーん。でも外で食べる時は、これが一番手ごろだしな。」

「お弁当は?」

「弁当?作る人もいないよ。」

ここは、私が作りますって、言った方がいいんだろうか。

「……先生、結婚してないんですか?」

「うん。今だに独身。ついでに彼女もいない。」

「寂しいですね。」


その時、二人の間に隙間風が通った。

「ええ、そうですよ。仕事漬けの寂しい医者ですよ。僕は。」

そう言って、サンドイッチを頬張る先生が、ちょっと可愛らしかった。

「……君は?」

「えっ?」

「君は、彼氏いないの?」

「はい、いません。」

「なんだ、僕と一緒じゃないか。」

二人で笑い合ったその時だった。


「じゃあ、僕と付き合うって言うのは?」

「えっ……」

先生は、真剣な目をしていた。

「大人になって眩しくなった君と、再会できてよかった。」

「先生……」

「どうして、忙しい仕事を合間に、君と一緒にいると思う?」

「それは……」

先生はただ懐かしくて、私に会いに来てくれたんだと、思っていた。

「返事は急がないよ。十分考えて、僕と付き合うか決めて。」


そう言って先生は、ベンチから立ち上がって、病院に戻って行った。

先生と付き合う。

先生は私よりも、一回りも上だ。

一緒に話していて、尊敬している。

嫌いじゃない。むしろ好きだ。

でも、これは恋心じゃない。

胸が痛かった。

先生を傷つけたくなかった。

でも、先生の気持ちに応えられない自分がいた。


返事は次の日にした。

お昼休み、やっぱり一緒にサンドイッチを食べた。

「考えてくれたかな。」

「はい。」

その途端、涙が溢れた。

「なんだか、悪い返事のようだね。」

「ごめんなさい。私、先生の事尊敬しているけれど、それは恋じゃないと思う。」

そう言った途端、先生は私を抱きしめた。

「嫌いじゃなければいいんだ。俺に一旦気持ちを預けてくれないか?」

「気持ちを預ける?」

「尊敬してくれているんだろ?嬉しかった。それが恋に変るまで、俺は側で待つよ。」

「先生……」

「だから、俺のモノになってくれ。」

抱きしめる力が強くなる。

「大切にする。傷つけたり、泣かせたりしない。」

この温かい温もりに、私は安心感を覚えていた。

「……はい。」

先生は私の顔を覗き込んだ。


「彼女になってくれるんだね。」

「私でよければ。」

「よかった。」

先生がぎゅっと抱きしめてくれる。

そう。この人に身を委ねる事が、幸せの一歩かもしれない。

「じゃあ、明日もここで待っている。」

「はい。」

「じゃあ、もっと千奈ちゃんと一緒にいたいけれど、仕事があるから。」

そう言って先生は、病院に戻ってしまった。

「はぁ……」

私は空を見上げた。

まるでため息が雲になって、流れていってるみたい。

「私と先生、付き合うのか。」

先生が言った通り、尊敬する気持ちがあるのなら、恋に変るかもしれない。


翌日、私は先生にお弁当を作って持って来た。

「弁当?作ってくれたのか?千奈ちゃん?」

「ほら、誰もお弁当作ってくれる人、いないって言ってたでしょ?それに、彼女らしい事って、他に分からなくて。」

先生は、微笑むとお弁当を広げてくれた。

「旨そうだ。頂きます。」

一口食べると、親指を立てた先生。

美味しいって言ってくれているんだ。

よかった。先生の口に合って。

「これから毎日、君の手作り弁当にありつけるのかな。」

嬉しそうに言う先生に、まずい事をしたと思った。


私、毎日お弁当作れるかな……

「ああ!無理しなくていいんだ。作れる時だけで。」

慌てる先生を見て、私は思わず笑ってしまった。

「はい。無理しない程度に、頑張ります。」

「そうだ。火木土作るって言うのは?」

「火木土?」

「月曜日は、大学で忙しいだろう?土曜日は……」

「先生、土曜日は大学休みです。」

「あっ、そうか。」

恥ずかしそうに照れる先生も可愛い。

「いいですよ。私、土曜日もお弁当持って、ここに来ます。」

「……いいのか?」

「はい。土曜日のバイトは、夕方からなんで。」


私は土日と居酒屋でバイトをしている。

土曜の日中は暇だから、お弁当作るのも、有りかな。

「助かる。日曜日会えないと思うと、君を恋しくてたまらないんだ。」

思わず、顔がぼっと赤くなった。

そんな事言われた事ないから、すごく嬉しい。


「……今度、どこかへ行こうか。」

「えっ?」

「デート。」

「は、はい!」

突然の緊張。デートって、恋人同士がするヤツですか。

「今度の土曜日の昼間は?」

「はい。大丈夫です。お弁当作って来ますね。」

「いや。その日は外で食べよう。」

顔がニヤけて止まらない。

どうしよう。先生の優しさが嬉しくて嬉しくて、たまらない。

「ああ。今から待ち遠しいよ。」

一回り年上の先生が、私とのデートを待ち遠しく思うなんて。

私、幸せだよね。

「晴れると、いいですね。」

「予報は晴れだから、大丈夫。」

こんな他愛のない話で、安心するなんて。

先生の告白を受けてよかった?

うん。よかったのかもしれない。


土曜日は、朝から雨だった。

「雨か~。予報は晴れだったんだけどな。」

先生と二人、待ち合わせのお店の軒下で、止まない雨を眺めていた。

「ご馳走様でした。パスタ、美味しかったです。」

「ううん。美味しかったなら、よかった。」

それから二人黙ってしまったから、雨の音がうるさい。

「バイトまでまだ、時間ある?」

「そうですね。」

時計を見たら、まだ時間的に余裕がある。

「……少し、歩こうか。」

先生が傘をさして、私がその中に入った。

「もっと寄らないと、雨に濡れる。」

そう言って、肩を抱き寄せてくれた。

「先生……」

「ん?」

ふいに先生と、目が合った。

すると、先生の顔が近づいてきて、唇と唇が重なった。


私のファーストキスだった。

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