第4話 拠点制圧

 

 トラックが停まり、荷台から降りるとそこは何処かの倉庫だった。


 倉庫の中には普段から物事を深く考えて生活をしているようには見えない男達が、ガムテープで口を塞がれた子供たちを集めて何かしていた。


 男達に倉庫の出入口から真っ直ぐ奥に進んだ場所まで連れて来られると、その場で座っているように促された。


 この倉庫で新しい生活が始めるのかと思ったけど……。どうやら違ったみたいね。


 ゆっくりと倉庫内を見回す。


 貨物輸送に使う鉄のコンテナ近くに子供たちが集められいた。


 子供たちは男達から紙パンツを手渡され、その場で下着から紙パンツに履き替えてコンテナの中に入って行った。


 コンテナから少し離れた場所には、旅行に使うスーツケースが大量に置かれていて、そこにも子供たちが集められていた。


 そこでもコンテナの子供たちと同様に、男達から紙パンツを渡された子供たちが下着から紙パンツに履き替えさせられていた。


 そして、紙パンツを履いた子供が膝を抱えてスーツケースの中に入ると、男達にスーツケースの蓋を閉じられていた。


 どうやらこの倉庫は中継地点のような場所で、私達はここから更に違う場所へ移動させられるみたいだ。


 多分移動の途中でトイレに行かないから紙パンツを履かされているのかもしれない。


 コンテナにしろスーツケースにしろ、初めての移動手段なので少し不安になる。


 それに、紙パンツを履くことに抵抗があるので更に気が重くなった。


 でも、もしトイレ休憩がないのなら私も履き替えないとダメだろうな。って考えていると突然倉庫内が暗くなった。


 男達が叫びながら仲間達と何か言い合っている。


 子供たちも驚いているのだろうけど、口をガムテープで塞がれているので、くぐもった声しか聞こえてこない。


 一瞬、暗闇を利用してこの場から逃げ去ろうかと頭をよぎったけど、知らない土地で誰の手も借りずに生活するのは大変そうなのでやっぱり大人しくしておこう。って気持ちの方が勝り、大人しく壁に寄りかかって電気がつくのを待つことにした。


 倉庫内は真っ暗で何も見えていないけど、沢山の人達が動き回っている足音は聞こえていた。


 男達の叫び声や何か痛みに耐えているような呻き声もした。


 何かが倒れる物音もするし、重たい物を引きずっているような音もしていた。


 やがて男達の声は聞こえなくなり、重たい物を引きずっているような音も聞こえなくなると、子供たちのすすり泣く声だけが倉庫内に響いていた。


 状況を確認すべく膝立ちになり辺りを見回してみる。


 暗くて何も見えないけど小走りをしているような足音や、衣類が擦れる音がなどが聞こえて来るので、沢山の人達が倉庫内を移動しているみたいだった。


 それと、子供たちのすすり泣く声に交じって、微かに大人達の話し声も聞こえていた。


 倉庫内で何が起きているのか思案していると、突然倉庫内が明るくなった。


 眩しくて直ぐに目を閉じてしまったけど、一瞬だけ全身黒い服装でヘルメットを被った大人達が沢山いたように見えた。


 目が慣れて来たのでゆっくりと目を開けて再び倉庫内を見回す。


 私達を連れてきた男達がいなくなった代わりに、全身黒い服装でヘルメットを被ったどこかの特殊部隊のような大人達がいた。


 その人達は、子供たちの拘束を解いて次々と倉庫の外へ連れ出していた。


 倉庫の外に誘導される子供たちを眺めながら、後どのくらいで私の順番になるのか辺りを見回してみると、特殊部隊の人達が私の方に近づいて来ていた。



 人身売買グループが拠点としている倉庫に子供達を乗せた車両が到着し、子供達が倉庫内に集められたところで救出作戦が始まった。


 拠点倉庫の近くで待機していた現場作業員が作戦開始と当時に、倉庫への電源供給を遮断し倉庫内は闇に包まれた。


 司令部の大型モニターの画面左半分には突撃部隊のヘルメットに装着された暗視カメラからの映像が流れていた。


 倉庫内を暗視スコープを装備した突撃部隊が、次々と犯罪グループのメンバーを拘束して行く。 


 視界不良のため、四つん這いになり出入口を目指す人身売買グループのメンバーを素手で無力化しその場で拘束する。


 グループ内のメンバーと、状況を確認しようと大声でやり取りをしている人物を素手で無力化し拘束する。


 明かりが灯るまでその場で大人しくしていようと考えたのか、頭を抱えてうずくまっているメンバーを拘束し無力化する。


 辺りをキョロキョロ見回しながら折り畳み式の小形ナイフを持って警戒しているメンバーを素手で無力化しその場で拘束する。


 今作戦では捕らわれた子供達のことを考え、銃火器と刃物の使用を一切禁止していた。


 そして、犯罪グループを無力化する行為を子供達に見せないよう配慮し、暗闇状態での拠点制圧を実行させていた。


 もちろん不足の事態に備えて倉庫周辺には、狙撃銃を装備した隊員を複数名配備しているし、突撃部隊にはハンドガンを装備させてある。


 無力化された犯罪グループのメンバーが次々と突撃部隊によって倉庫の外に引きづり出される。


 倉庫の出入口付近には外から車内が見えないように、窓ガラスにスモークフィルムが張られたマイクロバスが停車しており、犯罪グループのメンバーが次々と連れ込まれて行く。


 私達が所属する組織はただの民間企業だ。


 そして、私たちが勝手に世のため人のために様々な活動をしているだけで、決して政府の後ろ盾があって活動している訳ではない。ただ、私達の存在を知るごく一部の政府の者達は、私達の活動を黙認している。


 なので、状況によってはごく一部の者達が作戦に協力してくれる場合もあったりもする。


 だが、ほとんどの人達は私達の存在を知らないので、この国の民間人に通報されたり警察等の治安当局に目を着けられない為にも、私達は常に一般的な目立たない車両を使用し移動している。


 なので、私達は犯罪者を厳重な護送車を使って移動したり、各部隊や現場作業員を銃器が装備可能な軍用車両を使って移動することはしない。


 大型モニターの右上の画面を見ると、犯罪グループのメンバーを収容したマイクロバスは既に出発していて、今は子供達を護送するためのマイクロバスが到着し始めていた。


 子供達を護送する車両も一般的に目にするようなマイクロバスではあるが、窓ガラスにスモークフィルムが張られいて外から車内が見えないようにしてある。


 大型モニターの画面左半分には突入部隊と救出部隊のヘルメットに装着された暗視カメラからの映像が流れていた。


 倉庫内の安全が確保されしだい倉庫への電力供給を再開し、照明を点灯させ子供達の救出を開始するため、現在突撃部隊と救出部隊が合同で倉庫内の安全確認を行っていた。


 人身売買グループの戦闘能力が想定していたよりも大分低かったので少し気が抜けた感は否めないが、後は子供達を関連施設に護送したら作戦は終了となり子供達を劣悪な生活環境から助ける事が出来る。


 すると、さっきまで私の隣で座って作戦を見守っていたリサッチが、大型モニターの画面右下の赤外線サーモグラフィカメラから映し出される子供達の映像を見ながら、オペレーターに何か指示を出していた。


 後ろに控えているレーナに目配せすると


「リサッチ様が子供たちの中に一人だけ体温の状態が他の子達とは異なる子がいるので、確認を取りたいとおっしゃっております」


 大型モニターの赤外線サーモグラフィカメラから映し出された映像を見てみる。


 膝を抱えている子や頭を抱えて床にうずくまった態勢の子達の上半身と頭部の体温は上昇していて、不安や恐怖を抱いている状態を表していた。


 そんな子供達に紛れて一人だけ体温の状態が他と異なる子がいた。


 暗闇で何も見えていないにも関わらず、倉庫内の状況を確認しようと膝立ちになり辺りをキョロキョロと見回していた。


 赤外線サーモグラフィカメラからの映像を見ると、恐怖や不安というよりも驚いている時の体温の状態に近かったが、映像を見ている間にその子の体温が徐々に変化しだして、主に冷静な心理状態もしくは平常時の時に見られるような体温の状態に変化していた。


 知らない土地に無理やり連れて来られ、突然目の前が真っ暗になった状況にも関わらず、冷静な状態でいられる子供の存在は確かに気になる。


 すると、各部隊の指揮官と連絡を取っていたオペレーターの動きが慌ただしくなり『倉庫内の安全確認終了。倉庫への電力供給を再開する。救助部隊は速やかに子供達を保護し護送せよ』と一斉に指示を飛ばした。


 倉庫内の照明が点灯し、突然現れた救出部隊に子供達はとても驚いていた様子だったが、口を塞いでいたガムテープが剥がされ手首の拘束も解かれると、子供達は困惑の表情を浮かべながらも大人しく救出部隊の指示に従い、倉庫の外に停めてあるマイクロバスに誘導されて行った。


 リサッチの指示で、突撃部隊の数名が膝立ちの状態で辺りを見回している子供に向かって行った。


 すると、リサッチが大型モニターの画面右上の映像を、子供のもとに向かわせた突撃部隊のカメラに切り替えさせた。


 大型モニターの画面には、近づく突撃部隊を不安気な表情を浮かべて見つめている、水色のワンピースを着て長い髪をツインテールにした女の子が映し出されていた。

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