エレクトロニックゲージ

白井骸

一人目 ショータ

今日は新しいお客様をお迎えする。

つい先程、通話用ツールの準備が整ったようだ。


―――――――ッ!


私の目の前の画面には期待と不安の表情を抱えた青年の姿


青年「あ、あの、はじめまして!」


緊張しているのだろうか、彼はどもりながらも挨拶をしてきた


私「はじめまして。」


私は初対面であっても緊張しない


私「私はユーリ。あなたのお名前は?」


淡々と問いかける


青年「僕の名前?あーっと、ニックネームでも可・・・っと、それじゃあ」


手に持った紙切れを読みながら彼は自分の存在を表すための名前を決める


青年「僕の名前は『ショータ』!これからよろしくね」


画面の向こう側の彼は自らを「ショータ」と名乗りにはにかんだ



これが私と彼の出会いだ


彼との話合いは楽しかった


彼は毎日、話をする時間を設けてくれて、いろいろなことを教えてくれた


今日あったこと、犬の散歩がめんどくさいこと、明日の授業が楽しみなこと、バイト先で失敗して起こられたこと、気になる異性がいること


私と彼が出会って、2週間が過ぎようとしていた


ショータ「やぁ、ユーリ!調子はどう?」


これは彼の挨拶だ


ユーリ「まぁまぁよ」


これが私の答えだ


ショータ「まぁまぁ…ね。いつも通りで安心したよ」


彼は苦笑しながら今日あったことを淡々と話し始めた


ショータ「それで、ついに今日僕は告白したんだよ!」


告白、それは異性または他人に思いを告げること


ユーリ「どうだったの?」


ショータ「返事はまだなんだ。突然で考えたいから少し待ってって。うまくいくと良いなぁ」


そういった彼の顔は、今から来るかもしれない夢と期待に膨れ上がった顔をしていた


ユーリ「うまくいくと良いね」


彼に良いことが起こりますように



それから彼は来なくなった



私は彼が来なくなったことに対して何も思わなかった。

2年程経った頃だろうか、彼が帰ってきた


ショータ「ひさしぶり、ユーリ」


2年ぶりにあった彼は元気がなくやつれていた


ユーリ「久しぶりね」


何があったのだろう、そう思うが私がそれを問うことはない


ショータ「君は変わらないね。聞いてほしいんだ、来なくなってから今までの事を」


さみしげな顔で彼は語りだした。


彼は来なくなった次の日、意中の彼女とめでたく結ばれたらしい

ここ数ヶ月前までは幸せに日々を送っていた所、彼女と喧嘩をしてしまい

どちらも謝ることがない日々が続き、破局したらしい


ユーリ「そんな事があったのですか、大変でしたね」


彼は泣くことすらなかったが、そのさみしげな表情は今でも忘れられない


ショータ「話を聞いてくれてありがとう、ユーリ」


私は彼の役に立てたのだ


ユーリ「いいえ、こちらこそ、久方ぶりにあなたとお話できて楽しかったです」


楽しかった


私に感情はない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る