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 しばらくして、副社長と二人の部長は社長室に入った。三人で説得しようというわけだ。

「やあ、みんなお揃いで」と言った社長の姿を見て、一同は固まってしまった。窓際にいた社長はジャケットを脱いで綿入れはんてんをはおり、竹刀を手にしていたのだ。それからまた、クネクネと身体を動かしはじめた。どんな格好悪い踊りかと思ったが、どうやら殺陣を練習しているらしかった。


「そんなに見られたら照れるじゃないか」と、手を振りながらさわやかに言ってのけた社長の場違いなこと! 村上部長は、一気に気絶寸前に陥った。こんなバカな男は見たことがないと、心的ダメージを受けたのだろう。

「何をやってるんですか!」と、気を取り直して山田副社長が叫んだ。(もうこいつは病院に送ろう)と半ば決意しながら。

「社長、どうしたんですか!」と、小太りな野村部長も叫び、三人は社長のもとへ駆け寄った。村上部長は青白い顔になり、ふらついた足で、泡でも吹きだしそうだった。


 社長は落ち着き払って、デスク越しの三人を見据えたあと、

「よおし、行くかあ」と言って、ドアに向かおうとした。その一歩目で、副社長が取り押さえた。

「何をするんだね!」

「社長、ちっとも意味が分かりません。旅行に出るにしても、旅先や日数を言ってもらわないと」

「そうです。それに今回の旅行は普通じゃありませんよ。私たちに詳しく説明してください」と、野村部長も加担した。

「ゴボゴボ……」と、これは村上部長の方から聞こえた気がして、三人が一斉にそちらを向いた。村上部長の視線はロンドン・パリだった。こいつもヤバいと、副社長は思った。

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