第三話〔サムライ来訪〕2

その頃──

 「I caught a big one大物獲ったぞ!!」

 海から出たエモンは、その手に握ったモリを高く挙げた。

 モリの先端には、三匹の魚が刺さっていた。

 「すげー!」

 「もっかいつってー!」

 その活躍を見た子供たちはエモンに集まり、彼の掲げた魚へ手を飛ばした。

 「フハハハハ! こら近づくでない、モリに当たると危ないだろ! ハハハ、そして今回はこれで終わりとしよう」

 魚を引き抜き、エモンは砂浜に置いていたグリルに魚をのせた。

 「君たち一人一人、それぞれ二匹は捕ったからな。これだけ食えば、力をつけるには十分であろう」

 モリを担ぎ、フンドシ一丁のエモンは海に顔を向けた。

 「そこから先、君たちで必要な分は君たちで掴みとるがいい」

 エモンは子供たちに顔を爽やかな笑顔を向けた。

 その笑顔に子供たちもつられて笑った。

 「えぇと……エドモンドさん?」

 その光景を立ち尽くし見ていた日々乃は尋ねる。

 「ンンッ、エモンでいいぞ」

 子供たちは焼いた魚を持って走り去った。腕を伸ばしストレッチするエモンに日々乃は近寄った。

 「ではエモンさん……貴方の目的は何ですか?」

 日々乃は再度その質問をした。 

 「フッ、言ったであろう日本海の水泳だと」

 「このあとの……この町へ来た、本来の目的ですよ」

 「このあとは、カキゴオリを食べて頭を冷静にしたり、和食店を探しだしてザルソバなるNoodlesを食したり…」

 エモンは目を閉じ、まだ見ぬ日本食に思いを馳せた。

 「彼が私を引き連れるまで、しばらくこの土地を堪能するつもりだ」

 少し遠くの休憩所にて、アシェリーが日日陰でタブレットPCを操作し、時折エモンに厳しい表情を向けていた。

 そんな彼にお構い無い様子で、エモンは遠くを──駐屯地を見つめた。

 「そのあとはだな……あそこに少し用事がある。それが終われば、ここを去ろう」

 日々乃は警戒心を保ちながら、エモンの様子を観察する。

 「そういえば少年、君の名を聞いてなかったな」

 「僕は……新橋、日々乃」

 日々乃はエモンの定めるような目に臆することなく答えた。

 「新橋君……よし、覚えたぞ」

 両者は互いに顔を見る。互いに心の内を見ようとした。

 「あのね~、ひびのはつよいんだよ!」

 そんな中、一人の子供が日々乃に抱きつき言った。

 「ここを守ってくれるぐらいちよいんだよ!」

 「こら、お前ら!!」

 その言葉に日々乃はやや照れた。

 そんな日々乃の表情から、エモンは何かを読み取ろうとしていた。

 「ほう、強いとな」

 エモンは興味津々に日々乃の目を見つめた。

 「な、何ですか!?」

 「……確かにな、目を見ればわかる」

 日々乃は身を引き締めた。

 「新橋君の目は……戦士の目であるな」

 エモンは見透かすように日々乃を見つめた。

 その碧眼は鋭く、瞳の奥は深く全てを見通していた。

 「僕は……」

 両者が見つめあったその時──


ウーーーーーー!!


 海辺一帯に警報が鳴った。

 「ウッ……!」

 日々乃の頭に直感が走った。

 「……また奴らだ!」

 日々乃は走り出した。行き先は駐屯地。

 「ひ、日々乃!?」

 水着の上にパーカーを着た望とすれ違う。健康的な白色の水着であった。

 「子供たちを連れて避難しろ! オーガロイドが攻めてきた!」

 「え……!?」

 望の顔が恐怖に包まれた。

 「大丈夫だよ」

 そんな望に振り返り、日々乃は力強く宣言する。

 「俺がこの町を、守ってやる!」

 そう言って日々乃は走り去った。

 「……み、皆ついてきて!」

 ハッとした望は子供たちを連れて避難する。

 「がんばれー、あーすせいばー!」

 子供たちは日々乃に声援を送った。

 「アース……セイヴァー……!」

 「おい、エモン」

  アシェリーが駆け寄り、手に持った鞄からジャケットコートを取りだし、それを広げてエモンに手渡した。受け取ったエモンの目は駐屯地に向かう日々乃のみを見つめていた。

 「それが、この地にいる戦士の名前か」

 「なにブツブツ言ってんだ……行くぞ、“サムライ”」

 エモンはジャケットコートを羽織り、襲撃されている地に向かって駆けて行く。


 「急げ!! 整備中の機体を、全て動かせるようにしろ!」

 整備ドッグにて勝家は声高く司令する。外では数匹のオーガロイドが、山から降りて向かおうとしていた。

 「ランクBオーガロイドの群れは、真っ直ぐこちらに向かってきます!」

 「武装補給、まだ終わりません!」

 次々と大きな声で連絡が届く。

 「さて、私たちはどうすればいいんですか?」

 風副長は腕を組み尋ねた。

 「私たちはいつでも出動できます。あの程度なら楽勝です」

 勝家は血気盛んそうなアッシュガル第54部隊を見て決断した。

 「……分かった、出動準備を出す──」

 「アースセイヴァーを出せ!」

 整備ドッグの開いた入口に全員が向いた。一人の少年がそこにいた。

 「新橋日々乃!?」

 日々乃は格納庫へと足を踏み入れ、息切れしながらアースを見上げる。

 「ハァ、ハァ……アースセイヴァーなら、あんな怪獣共、楽にぶちのめしてやる!!」

 日々乃は走り、汚れたままのアースセイヴァーに飛びうつり、背中へと登る。

 「待て少年! この機体は我々の保護下に」

 「この機体は俺の力だぁぁぁ!」

 日々乃は風副長に吼えるように返答した。彼女は驚き、後ろに下がった。

 日々乃はアースセイヴァーの背中の装甲板に触れた。ハッチが開き、コクピットの中へと乗り込む。

 「行くぞ、アースセイヴァー!!」

 『グルルゥゥゥゥゥゥ……』

 アースセイヴァーはパイロットへ返事をするようにガントレットジェネレータを稼働した。ジェネレータ音は重く響き、剛腕の獣はウォームアップを始める。


 ジェネレータ音に気づき、オーガロイドの群れは一斉に一点を睨んだ。アースセイヴァーが迫ってくる。

 「撃滅しろ、アースセイヴァー!!」

 アースセイヴァーは拳を振り上げながらオーガロイドに殴り込みをかける。オーガロイドが一体殴られ吹っ飛ばされる。続いて一体、また一体と殴られる。

 『『『『ウガガァァァァァァァァァ!!』』』』

 『グルルゥゥゥゥゥゥ……』

 アースセイヴァーはただひたすら殴ることに専念していた。その姿は、まるで荒々しき鬼であった。

 (最高だ……俺は強い!)

 一体が暴力の渦から離れ、基地に向かう。

 日々乃はハッとし、逃げた一体に向かおうとしたが──

 『『ウガァァァァァァァァァァッ!!』』

 アースセイヴァーの振り上げた両腕を、オーガロイドが両側から襲いかかり羽交い締めした。

 「どけぇぇぇぇ雑魚怪獣がっ!!」

 アースセイヴァーは二体のオーガロイドを振りほどくも、すかさず三体のオーガロイドが纏わりつく。

 「どけよコラァッ!! 基地に怪獣が!!」

 [リアクター残量低下、ジェネレーターガントレット充填開始]

 日々乃の脳裏に項目が浮かんだ直後、日々乃―アースセイヴァ―は全身の力が無くなるのを感じた。

「何だと!?」

 [リアクター残量低下──]

「なんだよ! 動けアース!」

 アースセイヴァーはなんとかオーガロイドから脱出した。だがアースセイヴァーの動きは、先ほどより鈍くなっていた。

 パンチを繰り出しても、オーガロイドには避けられてしまっている。

 「エネルギーが少ないって何なんだよ!?」

 周りをオーガロイドに囲まれ、アースセイヴァーーは身動きが取れない。動けないまま、アースセイヴァーはオーガロイドに殴られる。

 「グアッ!!……行かせるか、あの人たちの基地に……グアッ!!」

 アースセイヴァーは地面を蹴り、格納庫へと迫るオーガロイドの背中を拳で貫いた。

 しかし、アースセイヴァーの背中にも、多数のオーガロイドが迫り、牙や爪を突き立てた。

 「グアァァァァァァァッ!!」

 日々乃自身の背中に激痛が走る。背中に装着されたコクピットのコネクタを通じて、アースセイヴァーの損傷を知らせる信号が日々乃の頭に流れ込んでくる。

 「痛ぇ……痛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 「日々乃……っ!?」

 荒れる戦場に水着姿の望は向かい、そしてオーガロイド達にリンチされるアースセイヴァーの姿に涙を浮かべた。

 「誰か……日々乃を救って!!」

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